スポーツ界でパワーハラスメント(パワハラ)を中心とする問題が相次いで発覚している。体操、レスリング、駅伝…。ワイドショーで連日のように取り上げられているのは、五輪での活躍を期待される選手や「名門」チームでの出来事であり、スポーツジャーナリストからは「報道されているのは氷山の一角」との声も多い。事態を重く見た国のスポーツ庁は、再発防止策や公正な調査などを検討するプロジェクトチーム(PT)を設置したが、東京五輪・パラリンピックまで残り2年となる中で、日本のスポーツ界は変わることができるのか。言論ドットコム編集部は今回、その深部に迫った。

 「スポーツ界の悪い伝統を断ち切る意味では大変良いチャンスなのかなと前向きにとらえている」。9月12日、スポーツ庁の鈴木大地長官はPTでこのように強調した。今年中に対応策の方向性をまとめ、国に指導権限を与える法改正を含め検討するとしている。だが、その動きがあまりにも遅いと見る関係者は少なくない。

 今年に入って噴出しているスポーツ界をめぐる「不祥事」は、週刊誌報道や「内部告発」で発覚し、スポーツ庁の鈴木長官が「水戸黄門」のように厳しく指弾。ワイドショーなどが繰り返し取り上げ、「1億総監視」状態の中で幹部が辞任したり、解任されたりしている。スポーツ庁という「お上」に、協会・団体側が呼応するかのように内部調査・処分に入るパターンである。

 大抵の団体・組織には「ドン」が存在するものだが、そこに「お上」の厳しい視線が注がれるとなれば、「内部処理」は限界を迎える。この観点からは、文部科学省の外局として2015年10月に設置されたスポーツ庁は、それなりの「役割」を果たしているといえる。だが、気になるのは多くのケースで数年前から問題視されていたにも関わらず、本当に国はこれまで問題に気がつかなかったのか、という点だ。

 公益財団法人「日本スポーツ協会」はスポーツにおけるセクシャルハラスメント(セクハラ)やパワハラなどの行為に対する相談窓口を設置し、専門相談員が対応の上、事実確認や指導・処分などを行うことができる。スポーツ指導の暴力行為などに関しては、独立行政法人「日本スポーツ振興センター」に相談窓口を設けている。日本相撲協会や日本レスリング協会のように公益法人であれば、内閣府の公益認定等委員会に「告発」し、絶大な権力を持った委員会がトラブルの「監督」をすることもできる。ただ、パワハラなどの「被害者」が不利益を受けないように、どこに相談し、その結果として、どのように改善されるのか分かりにくいとの声は消えない。

 こうした指摘を踏まえ、言論ドットコム編集部は、スポーツ行政に明るい元内閣府幹部にスポーツ界をめぐる問題について率直に質問した。まず、これまでに今年発覚したような同様の問題を耳にしたことはないのか問うた。すると、予想を超える回答があった。それは「率直に言えば、あらゆるスポーツ界の問題は『情報』として耳にしている。問題の多くは、把握してこなかったわけではない」というものだ。

 さらに驚かされたのは、その先だ。別の元内閣府幹部によると、そうした情報は「協会・団体などとの日常的なコミュニケーションの中でもたらされることが多い」というが、なぜ対応してこなかったかの理由については「取り上げていけばキリがなかった」というものだった。パワハラなどの被害者が勇気を振り絞って「内部告発」し、メディアの注目が集まれば動き出すものの、それまでは静観しているとも受け取れる回答だ。

 内閣府副大臣を経験した衆院議員は「スポーツ界には問題が山積していたのは知らされていた」とした上で、「文教族議員には協会・団体の幹部に就いている人も多く、あえて刺激することまではしないというスタンスだった」と語る。

 こうした証言の上にたてば、スポーツ界をめぐる不祥事はこれまで数多く起きているものの、その「発覚」が抑えられてきただけにすぎないということになる。有力政治家や組織・団体への影響などを考え、積極的に動いてこなかった可能性がある。パワハラは、地位や人間関係などの優位性を背景に精神的・身体的苦痛を与える行為である。鍛え抜かれたアスリートであっても、一度被害に遭えばバランスを崩し、本来の動きに結びつかなくなることは想像に難くない。

 2017年3月に厚生労働省がまとめた調査結果を見ると、過去3年間にパワハラ経験が「ある」と回答した人は32・5%で、4年前の前回調査に比べ7・2ポイント増加。だが、被害を受けた人のその後の行動は「何もしなかった」が40・9%ともっとも多く、実際に訴え出ることの難しさを感じさせる。スポーツ庁の鈴木長官は「スポーツ界の悪い伝統を断ち切る」と息巻いているが、東京五輪・パラリンピックが2年後に迫る中で実効性のある改善策を打つためには、これまでの国の対応や責任を徹底調査し、協会・団体のみならずスポーツ行政の信頼性を取り戻すことがまず先だろう。

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