中国のファッションシーンが変わりつつある。これまで韓国・日本・欧米の模倣デザインという、ファッションのアウトラインをなぞってきた中国だが、そこに大きなうねりが出てきているのだ。
「国潮:グオチャオ」という言葉をご存知であろうか。中国国内のブランドカルチャーを意味するこの言葉は、昨年から中国トレンドを牽引するキーワードとして、中国の若者に広く認知され始めた。
火付け役となったのは、2018年AWのニューヨークファッションウィーク。中国で歴史の長いスポーツブランド李宁(LINING)がコレクションにて発表したスニーカー1型は、オンラインショップ天猫でわずか1分で売り切れとなった。
勢いを見せる「国潮」ブランドの根幹を築くのは、平均27歳の中国人デザイナーがつくる世界観。これまでのいわゆる「単純模倣」の世界を飛び出つつある勢いが、そのデザインと価格から感じ取れる。
これまで主流であったインポート商品とその模倣品に比べ、「国潮」ブランドは、そのデザインにどこか中国人としてのナショナリズムを感じさせる要素があるのも1つの特徴だと言えよう。
無論、これまでにも簡体字をmixしたデザインは存在したが、いずれもブランドとして成立するものはほぼなかったのが現状でもあった。
なぜ、国潮ブランドは、急に注目が集まるようになったのか。
そこには、中国政府の方向性の変化が垣間見える。これまで「アメリカ」発のカルチャーとされ、積極的な政府支援が見られなかったストリートカルチャーに対し、2017年春、ストリートダンスの発展を促進する政策があげられ、メディア上でもその露出量が目立つようになった。
その中でも、2017年スタートのラップを軸にしたWEB番組「中国有嘻哈」や、ダンスバトル形式の一般参加型番組「热血街舞团」が特に注目を集めている。
また、政府系機関「国家体育総局」公認の全国街舞執行委員会(CSDA)も結成され、委員会が公認する試験に合格すると、その階級によって高校受験や大学受験、就職試験にて点数が加算されるという。
これまで潮流という分野の第一線を走り続けて来たカルチャーメディア「YOHO!」も数年前のサブカルチャーの領域からより「セレクトショップ」感をまとい、洗練された1つのカルチャーを気づいていると言える。
現在は日本でいうところの初期の「ZOZOTOWN」のイメージだろうか。ある種のおしゃれとトレンドに敏感である、という1つのわかりやすい指標となっている。
ここ10年で、中国ファッションは目まぐるしいスピードで、その流行の形状が変化してきた。
軸を持ったブランド群が存在しないまま、主に欧米のトップブランド、もしくは欧米韓国、日本の模倣のみでひた走って来た「模倣の時代」。
アイコンとなるKOLが自らモデルとなり、既存の模倣品にオリジナルの要素を加えて「オリジナル模倣品」として販売する「KOLショップの時代」。
そして、まだ主流とはいえないながら、昨年から政府の介入により、確固たる1つの「トレンド」を築きはじめた「国潮の時代」。
中国ファッションの自由と不自由、意図的な操作を感じざるを得ない中国現代カルチャーと時流のうねりは一過性のものとなるのか否か。日本の方も注目してほしい。

ブランドPRプランナー兼美容家 柳瀬真弓

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