安倍晋三首相が3選を果たした自民党総裁選で、市場関係者をドキッとさせる発言が飛び出した。アベノミクスの中核である日銀の金融緩和について、首相は「ずっとやっていいとは思わない」と言及。今後3年間の総裁任期中に金融緩和を縮小する「出口戦略」に道筋をつける考えを示した。突然の「出口宣言」に市場関係者は驚いたが、低金利で経営が苦しい地方金融機関に配慮した「リップサービス」だったとも受け止められている。いまだデフレ脱却の目安とされる物価上昇目標2%は遠いが、首相発言の狙いは何なのか。

 一連のやりとりを振り返ってみよう。9月14日の総裁選討論会では、まず質問者が「(総裁に選ばれた場合、異次元の金融緩和という)不正常なリスクの高い事態を次の政権に引き渡すのか。それとも『出口』についての道筋をつけて引き渡すのか」と安倍首相に問いただした。

 安倍首相は「ずっとやっていいと全く思っていない」と回答。「私の任期のうちに(出口への道筋を)やり遂げたいと考えている」と明言した。「出口」の手段や時期については「黒田さん(=東彦・日銀総裁)にお任せしている」と述べるにとどめている。

 なぜ、突然このような発言をしたのか。1つの見方は、対立候補の石破茂元幹事長が「アベノミクスの恩恵」が地方に及んでいないと批判していることに「対抗」したのではないかということだ。

 日銀は国債を大量に買ってお金を市場に流す「異次元の金融緩和」を2013年4月に始めたが、低金利が続くことで金融機関の「利ざや」が縮小。地方銀行などの経営が悪化しており、銀行同士の再編が強いられている地域もある。「地方重視」を打ち出す石破氏に「負けたくない」との気持ちから、安倍首相は思わず調子のいい台詞を口に出してしまった可能性が指摘されている。

 実際、市場の反応はどうだったのか。結論から言えば、安倍首相の発言は現実味をもって迎えられなかった。3連休明け9月18日の国債市場は、長期金利の指標である新発10年債の終値利回りが前週末比0・005%高い0・110%。専門家の中には「出口戦略への警戒感が強まり、国債の売り注文が目立った」と説明する人もいたが、この程度の金利上昇では、首相の発言はほとんど市場に影響しなかったとみてよいだろう。

 出口に向かっても良い経済情勢になっていると見る人は少ない。8月の消費者物価指数は、値動きの激しい生鮮食品を除いたベースで前年比0・9%上昇、生鮮食品を入れても1・3%上昇で、日銀の目指す物価安定目標「2%」からほど遠い。しかも、2019年10月には消費税率が10%へ引き上げられる予定で、景気が落ち込むことが予想される。こうした経済情勢で、景気を冷やす方向に働く出口に日銀が踏み出せるのかは疑問だ。

 「いい面の皮」なのが、突然ボールを渡された日銀の黒田総裁だ。安倍首相が「3年以内に出口に道筋をつける」と言ったということは、日銀に対し「3年以内に出口へ向かえる環境を整えろ」と命じたにも等しい。つまり「3年以内に物価上昇率2%を実現しろ」と指示したことを意味する。

 大規模金融緩和の継続を決めた9月19日の金融政策決定会合後、記者会見にあらわれた黒田総裁の表情は憮然としていたようにも映った。黒田総裁は首相発言について「コメントするのは差し控えたい」とし、具体的な出口の時期については「あくまで2%の物価目標を達成して、そういった状況にしていく必要がある」と曖昧な表現に終始した。

 日銀関係者の間では「物価が上がらないのを日銀のせいばかりにするな」という不満も強い。「物価上昇のためには、政府がもっと成長戦略を進めて企業の生産性を高め、賃上げにつなげる必要がある」というわけだ。安倍首相の言動に翻弄される日銀の苦悩は続いている。

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