安倍晋三政権が「介護離職ゼロ」を掲げるなど、政治や政策においても介護の重要性に焦点があたる場面が増えてきていますが、みなさんは「介護」という言葉にどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。

 介護について報道されている内容をみると、「老老介護」「認知症」「人手不足」などネガティブなものが多く、昨今では「殺人事件」「職員のモラル」などの問題ばかりが注目を集めるようになってきてしまっています。その結果、たいていの方が介護に対して暗いイメージを持っているようで、私が経営している介護会社の新卒採用面接でも「はじめは介護に対する良いイメージがなかった」などと、告白する学生さんが多数いらっしゃいました。

 介護の現場にいる専門家の私から見ると、そういったイメージとは違う部分も多く、イメージが先行してしまっている一般の方々に、専門的見地から「介護」というものの実態を積極的に伝えていく必要性を感じるようになってきました。

 また、万が一の備えとして、介護に関する知識をあらかじめ蓄えておくことは、親の介護をする方や自身が介護を受ける方にとっても非常に有益だと感じています。高齢人口比率が25%を超える日本では、親の介護をする方、自身が介護を受ける方、ボランティアや介護の仕事に就く方など、様々な形でほとんどの人が介護に関わることになるでしょう。

 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によれば、2025年には65歳以上人口が全体の3割を超え、2055年には約4割に達する見込みとなっており、介護が必要になる目安となる75歳以上人口で見ても、2055年には25%を超える見込みとなっています。

 少子高齢化が一層進行する2060年に至っては、1人の高齢者を1.2人で支える社会構造になると想定され、誰もが「親の介護をする」または「自身が介護を受ける」ことで真正面から介護と向き合うことになると予測されます。その未来はそう遠くないものであるにもかかわらず、まだ差し迫っていない人にとっては、介護のことを全く知らない人が多いのではないでしょうか。

 例えば、病院に一度も行ったことがないという人は相当に珍しく、「もし病気になったらとりあえずここの病院に行ってみよう」と、近くの病院が頭にすぐ浮かぶことが一般的でしょう。一方で、介護についてはどうでしょうか。「もし介護が必要になったら、ここに行ってみよう」という場所が思い浮かぶ人は少ないのではないでしょうか。

 今回の寄稿では、はじめに介護を受けるまでの流れをご紹介します。次回以降は、より詳細な介護サービスの分類や活用法、また、昨今の日本の状況を踏まえたうえでの社会政策としての介護に対する提言、介護問題の処方箋などもまとめていけたらと考えています。

 病院に行く際に、みなさんは健康保険証を持参しているかと思いますが、介護にも「介護保険証」という専用の保険証が存在します。介護保険制度では、40歳以上の人が介護保険料を負担する代わりに、介護が必要になった際に申請を出して介護保険証に認定を記載してもらい、介護サービスが受けられるようになっています。利用できる方は、65歳以上で介護が必要という認定を受けた人(第一号被保険者)か、40歳以上65歳未満で特定疾病(関節リウマチ、パーキンソン病など16の疾病)にかかっている人(第二号被保険者)が対象になり、医療のように「誰でも」その制度を使えるというわけではありません。一般的には第一号被保険者の方が多いですので、今回はこの65歳以上の場合に行う手続きを説明します。

 はじめに、市区町村の窓口で要介護認定を申請します。申請を受けた市区町村の職員や委託を受けた調査員は申請者の自宅を訪問し、身体機能や認知機能に関する75項目の聞き取り調査を行います。その調査結果をもとに、まずはコンピューターによる一次判定が行われます。

 その後、市区町村で行われる介護認定審査会で、一次判定結果と主治医の意見等を精査した上で二次判定を行い、要介護度が決定されます。現在の要介護度は、予防的に一部支援が必要な要支援1・2の2区分と、常時何らかの介護を必要とする要介護1~5の5区分の合計7段階に分類されています。この要介護度に応じて、月に利用できる介護サービスの金額上限が決められています。

 介護認定が下りたらすぐに介護サービスを利用できるわけではなく、資格を持ったケアマネージャー(介護支援専門員)に担当してもらい、介護サービスの計画を作成してもらわなければなりません。ケアマネージャーの事業所(居宅介護支援事業所)と契約をして居宅サービス計画を作成してもらう際に、どういったサービス、どのサービス事業者にお願いすればいいかなどの相談をします。その後、サービス事業者の方とも契約し、ようやく介護サービスが利用できるようになります。

 なお、市役所に申請に行くのが遠くて難しいような場合には、自宅近くの地域包括支援センターなどが支援してくれますので、ケアマネージャーが決まるまでは、市区町村の役所か地域包括支援センターで介護に関する相談をすることになります。
介護サービスを開始した後、サービス利用者は所得に応じてこのサービス費用の1~3割を負担し、残りは介護給付費として介護保険財政から支払われることになっています。

 介護を受けるまでの流れをみてきましたが、いかがでしたでしょうか。介護の場合、病院に行く代わりにまずは市役所や地域包括支援センターに相談しに行き、保険証を得てからは病院の医師に診察を受ける代わりにケアマネージャーに相談するという流れになります。ここまでの介護の入口についてはイメージがついてきたかと思いますが、具体的な介護サービスのイメージとなると、まだ少し想像するのが難しいかもしれません。

 といいますのも、介護サービスには多様性があり、同じ「介護が必要な状態」の時でも、実際受けるべき介護サービスは住環境や経済的余裕、家族や地域との関わりなどを考慮したうえで人によって多様なものになるからです。具体的にどういう状況の場合に、どういった介護サービスが必要なのか、また望ましいのか、については次回に考察していきたいと考えています。

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ケアリッツ・アンド・パートナーズ 宮本剛宏
慶應義塾大学環境情報学部卒。繊維メーカーやITコンサルティング会社を経て、訪問介護を中心とする介護事業で2008年に起業。株式会社ケアリッツ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。
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