「頼む、2レフ(130円)恵んでくれないか」

と、足を引きずった浮浪者が話しかけてくる。

 ここはブルガリアの首都であり最大の都市、ソフィアの中央駅。隣国ハンガリーやトルコからの長距離線も停車する駅だけあって、だだっ広い空間にプラットフォームが17個も並んでいる。まるで、日本の東京駅か新宿駅かと見まごうほどの大きさだ。ただ1つ違うのは、駅にほとんど人がいないこと。そのため、はるか数百メートル向こうのプラットフォームまでガランと見渡せる。

巨大なソフィアの駅

「頼むよ、2レフくれってば」

と、物乞いはしつこく絡んでくる。

 ヨーロッパの街中であれば積極的に話しかけてくる物乞いは珍しくないが、どうもこんなにまったく人がいない駅で絡まれると少し怖い。言われるがままに2レフを渡し、早々にその場を立ち去り街中へ向かうことにした。

 地下道を通り市電の駅へ向かう。駅前は真昼間だというのに道は薄暗く、ただシャッターの閉じた店ばかりが並んでいる。

ほとんど人のいない駅

 とにかく「寂しい」というのがブルガリアの印象である。旧共産主義の亡霊は30年近くたってもこの国に取りついているのだろうか。

■日本とブルガリアの共通点は「人口減少」

レトロな電車

 ブルガリアは現在でもっとも急ピッチで人口が減少している国だ(シリアなどの戦争が原因の場所を除く)。1990年代には900万台だった人口が現在は20%減の約700万人。さらに、2050年には450万人へ、と人口が半分になると予測されている。近い将来にはブルガリア人というアイデンティティがなくなってしまう可能性もあるという。

と、まあこんな風に数字を並べてもピンと来ないかもしれない。ただはっきりとわかるのはこの肌感覚としての「寂しさ」だ。

 同様に人口減少が始まった日本の場合はどうだろう。人口減少の主な理由はもちろん少子高齢化だ。しかし、ブルガリアの場合はそれに加え移民としてEUの他の国へ出て行ってしまうのが大きい。出て行くのが主に若い層の働き手なので、結果的により急ピッチに人口の減少・高齢化となるわけだ。
 
 求心力がある地域に人が吸い取られて人口減少になる、という意味ではブルガリアと日本の共通点、というよりブルガリアがまるで日本の衰退する地方都市のようだ、と考えたほうがいいかもしれない。

ソフィアの街の一角

 そうしてみてみると、ソフィア駅前のシャッター街は日本の地方のそれとそっくりである。

■起業しやすい国を目指すブルガリア

 人口減少社会とどう戦うか。一片の光もある。首都ソフィアはForbesの「起業しやすい世界の都市トップ10」において10位に選ばれている。EU内では、ポーランド、イギリスについでブルガリアは3番目だ。

ブルガリアのIT起業家

 実際筆者の知人であるコロンビア出身のエンジニアも、今年この国でネットセキュリティ系の会社を起業していた。オフィスに尋ねて話を聞いてみる。曰く、なにより法人税が10%とヨーロッパ内では極めて低いこと、また街には娯楽も何もないが温暖な気候で、車や住居等が安く、仕事に集中できる環境が大きいという。さらに、週末投資家として不動産投資をしたりするのにもいい状況なのだそうだ。

 加えて、東欧諸国は基本的に数学教育が強い。数学を重んじる旧ソ連・東側の伝統もあり、ブルガリアは近隣のルーマニア・ハンガリーなどと並んで、国際数学オリンピックでも好成績を収める常連である。そのためかエンジニアも優秀な人が多く、それでいて人件費が安いのだから、十分にメリットがある。これはブルガリアならではの強みを生かした手法といえる。

ソフィアの町の風景

■シャイな国民性は移民に不向き??

 人口減少の話題には移民受け入れをどうするかということが必ずついて回る。基本的にブルガリアはどちらかというとあまりオープンではない国民性で、移民に対する反発は強いようだ。ブルガリアとトルコの間の国境はそのままEUとトルコとの国境線となるが、この国境線でも近年多くの移民が摘発されている。ブルガリア人のどこかシャイであまり感情表現をしないところも日本人と似ている。

トルコ・ブルガリアの国境

■人口減少社会のこれから

 実際、筆者は首都ソフィアや、第二の都市プロウディフなどに滞在していたが、いくらかの観光資源はあるがどこも時間が止まったような空間だった。繁華街も極めて小さく、おとなしい。どの町も常ににぎやかで活気のある隣国トルコからくるとその思いもひとしおである。

第二の都市、プロウディフの旧市街

 しかしブルガリアの場合、人口は減少する反面、コストの低い労働力やヨーロッパの中では温暖で比較的暮らしやすいことも背景に、ここ数年欧州からの資本が流入する傾向にある。2011、12年頃は欧州債務問題の影響を受け不景気にあえぎ、GDPにして0-1%程度の成長率であったが、2014年頃から建築セクターを中心にまた新たな経済成長を続けている。

 現在はGDPにして年4%程度の成長率となっている。すでに成熟しきっていて大きな成長を望みずらい日本とはやや状況は違うようだ。逆に言えば、人口減少でも成長できるというモデルでもあるのかもしれない。

 ブルガリアも日本も、人口減少社会の行く末というのはどうなるのか。人類史上初の現象であり、それは誰にもわからないだろう。ブルガリアとは状況が違う日本としては当然安い労働力は売りにできないし、経済成長モデルも全く違うものとなる。機械化、AI化を通じて労働生産性を上げていく、ということが人口減少社会での現実的な目標になるのだろう。

 しかし、よく議論されるような社会保障費用や労働力比率など単に数値であらわされるものだけ、が問題なわけではなく、この「寂しさ」、失われていく活気、のようなものとどうやって社会は折り合いをつけるか。それも重要になってくる。そんなことを感じた。

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バイラルワークス 早川大地
1977年東京生まれ。アプリ・音楽・メディア制作を行う株式会社バイラルワークス代表。自身もエンジニア、音楽プロデューサーとしての顔を持つ。現在は東南・東アジア、欧州、中米など1~2カ月ごとに国を移り、十数カ国を渡り歩く「移住生活」を行っている。