社会保障改革や2019年度予算の編成に向けた議論で、経済産業省が本来議論を主導すべきはずの財務省を圧倒している。社会保障改革に関しては、財務省がすぐにでも始めたい「負担増」の議論が来年まで先送りされ、まず経産省主導で高齢者の雇用改革を進めることになった。安倍晋三政権の経済政策を取り仕切るのは〝最側近〟である経産省出身の今井尚哉秘書官(1982年入省)を筆頭とした経産官僚だ。かつて「最強官庁」と恐れられた財務省に、もはや政権を振り付ける力はない。ただ、経産省が独走する中、歳出拡大に歯止めがかからず、財政悪化が進む可能性もある。

 10月5日に開かれた政府の未来投資会議で、安倍首相は「生涯現役社会の実現に向け、個人の実情に応じた多様な就業機会を提供する」と述べた。会議の実務を仕切るのは、経産省産業政策局長と内閣官房「日本経済再生総合」事務局長代理補を兼ねる経産省出身の新原浩朗氏(1984年入省)。今井氏の2期後輩にあたる〝第1の子分〟で、首相の信頼も厚い。

 会議で検討が始まったのは、現在65歳までとなっている継続雇用の義務付けを70歳まで引き上げること。高齢者も働いて収入を得てもらい、できるだけ年金支給額などを減らそうというのが狙いだ。2020年に高年齢者雇用安定法を改正することを目指している。

 ただ、歳出改革の話にもつながるこうした社会保障改革の議論の場で財務省の影は薄い。特に後期高齢者(75歳以上)の窓口負担を、現在の「原則1割」から「原則2割」へ高めるなど、財務省がすぐにでも始めたかった「負担増」の議論は、来年夏の参院選後まで先送りされた。

 2019~2021年に医療費のかかる後期高齢者になるのは、終戦前後生まれの世代だ。社会保障費はそんなに増えないため、財務省としては余裕のあるこの3年間にできるだけ歳出改革や負担増を進めたい考えだった。

 だが、結果的に有権者の反発を恐れる安倍首相と、経済政策の拡大が封じられることをいやがる経産省を説得できず、押し切られる形となった。

 2019年度予算の編成をめぐっても経産省の勢いは強い。経産省は予防医療の整備が医療費の削減につながるという立場で、政権はこのシナリオに乗って政策を進めている。財務省は反対の意見で、10月9日の財政制度等審議会(首相の諮問機関)には、「(予防医療は)医療費削減効果には限界がある」とする資料を提出した。

 とはいえ、資料が政府内で顧みられた形跡はない。かつて財政再建の司令塔としてにらみをきかせた財政審だが、いまや「一役所の会議の一つにすぎない」と揶揄され、あまり重視されなくなっているようだ。

 ここまで財務省の地位が落ちた背景には、そもそも安倍政権が財政再建より経済成長を優先していることがある。この結果、今井氏、新原氏を中心とする経済官僚が幅をきかすようになった。

 財務省の「チョンボ」も大きい。2014年4月、安倍首相は「景気に悪影響は及ばない」とする財務省の言葉を信じて税率8%への消費税増税を断行。景気の低迷につながり、安倍首相の不信感は頂点に達した。

 不祥事も相次いだ。今年4月には、福田淳一前財務次官がテレビ局の女性記者にセクハラを働いた問題で辞任。6月には、学校法人「森友学園」をめぐる文書改竄問題で、佐川宣寿前理財局長らが処分された。政権に迷惑をかけたとして集中砲火にあった財務省に、もはや政権に牙をむく気力はない。 

 9月の自民党総裁選で安倍首相は3選を果たし、総裁任期はあと3年続く。「最強官庁」といわれた財務省の面従腹背は続きそうだ。
 

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