中日新聞(東京新聞)の記者がつぶやいた一言が波紋を広げている。同社と言えば、菅義偉官房長官の記者会見で執拗に質問を繰り出す望月衣塑子記者が有名だが、今回は望月氏ではなく、別の「名物記者」が松井一郎大阪府知事にかみついたのだ。政治において、新聞記者は時に政局をつくり、時に政敵を潰す存在にもなってきたが、なぜ記者たちはかくも偉そうなのか。

 「実際、心ある府民は、松井府知事が不適格だと交代を求めてきた。」10月17日、中日新聞(東京新聞)の佐藤圭記者はツイッターにこのように記した。佐藤氏が関連づけたのは、油圧機器メーカーKYBと子会社による免震・制震装置の検査データ改ざん問題。佐藤氏は、松井府知事が大阪府庁本館に使われているKYB製の免震装置が「不良品」だとして交換を求める考えを示した、との共同通信のツイート「松井大阪府知事が不良品だと交換求める」を引用。「なるほど、この見出しだと松井府知事が不良品みたいだ(笑)」とした上で、先の文言をつぶやいた。

 これには「松井知事を選んだ大阪府民は心無いのでしょうか?」「記者とは思えぬほどの低劣極まりないツイート」などの反発が相次ぎ、さすがに松井府知事も反応。同日のツイートで「僕を選んでくれた府民は、心無い無知な人々って事か」と記し、「自分は賢い偉い、自分が正義と勘違いする馬鹿記者の典型やね。東京新聞の購読者の皆さんは、このように人を見下した勘違い記者が記事を書いている事に留意しましょう。」と怒りを見せた。

 中日新聞(東京新聞)と言えば、安倍晋三首相に近く、その「代弁者」ぶりが際立っているとも指摘されるジャーナリスト・長谷川幸洋氏を生んだ新聞社だが、佐藤氏はどのような人物なのか。佐藤氏と共に政界取材した経験がある全国紙政治部記者はこう語る。「佐藤氏はどちらかと言うと一匹狼タイプの記者。中日新聞(東京新聞)は、永田町では他社に比べて記者が少ないので、同じような境遇の地方紙記者と仲良く『特オチ』しないための記者クラブの恩恵を受けていた。眼光鋭く、滅多に笑わない人だった」。

 公式ツイッターによると、佐藤氏は1991年に中日新聞に入社。三重総局、東京本社(東京新聞)政治部、東京特別報道部を経て、2018年1月から東京社会部。ツイッターのフォロワー数は2万6000を超える。

 三重総局から東京に異動し、「永田町の住人」たちを取材する政治部に移った当初は「右も左も分からないような感じで、とにかくおとなしい人だった」(他の全国紙記者)というが、次第に「野党寄りになっていった」(民放記者)との声も。特に、麻生太郎財務相には厳しい視線を送っているようで、最近も内閣支持率の記憶違いを指摘された麻生氏の対応について「いつもながらの傲岸不遜。謝り方のひとつも知らない、漢字もまともに読めない。まるで幼稚園児だ。こんな人物が大臣に居座り続ける日本の不幸。」(10月17日)、「息を吐くように嘘をつく麻生氏。この人の記憶はいつも自分に都合よく改ざんされている。」(10月11日)とツイッターで批判している。

 この佐藤氏と「二枚看板」とも言えるのが、望月衣塑子記者だ。社会部で培われた独特な視点で政治を取材し、ツイッターのフォロワーは8万2000を超える。今や菅義偉官房長官の「天敵」といわれ、他社の政治部記者が菅官房長官からにらまれぬよう質問を「遠慮」しているのを嘲笑するかのように、記者会見で執拗に政権を追及。会見で持論を織り交ぜながら質問する望月氏と、短く質問するよう促す官邸スタッフ、そして、素っ気なく答える菅官房長官という構図は「お笑い」番組のようでもある。

 「安倍一強」時代を謳歌する政権だが、頼りにならない野党ではない「天敵」の登場には想定外のダメージもあるとみられ、安倍政権の「応援団」といわれる産経新聞から何度も記事で取り上げられている。「東京新聞・望月衣塑子記者、また意味不明な質問・・・菅義偉官房長官『事実に基づいて質問を・・・』と苦言」(2017年11月9日)、「菅義偉官房長官、東京新聞の望月衣塑子記者に『事実に基づいて質問を』(2018年1月16日)などの記事は、まるで菅官房長官の「苛立ち」を代弁しているかのようだ。

 ただ、実はこの産経新聞も政府高官の記者会見で、官邸スタッフを悩ましてきたことはあまり知られていない。同社の論説委員兼政治部編集委員の阿比留瑠比氏は、安倍首相に最も近い記者の一人で、日常的に電話をしたり、首相公邸で安倍首相と懇談したりする間柄。その阿比留氏は、当時の民主党政権や現在の野党議員を嫌悪し、執拗にコラム記事などで批判を繰り返した。

 中でも有名なのは、菅直人首相の記者会見でのことである。質疑応答で、阿比留氏は時の「最高権力者」にこう迫った。

「産経の阿比留です。先ほど、総理は辞任する選択肢はあるのかという時事通信さんの質問に答えませんでしたが、現実問題として、与野党協議にしても最大の障害になっているのが総理の存在であり、後手後手に回った震災対応でも総理の存在自体が国民にとっての不安材料になっていると思います。一体、何のためにその地位にしがみついていらっしゃるのかお考えをお聞かせください」

 よくイライラすることで知られる菅氏は、一瞬イラっとした表情を見せたものの、「まあ、阿比留さんの物の考え方がそうだということと、客観的にそうだということとは必ずしも一致しないと思っています」と流したが、会見での「菅-望月」「菅-阿比留」バトルは右派系の産経と、左派系の中日(東京)の立ち位置が明確になっているともいえる。

 阿比留氏のような言い方での質問を今、安倍首相の会見で佐藤氏や望月氏がぶつけた場合はどうなるのか。権力の中枢での「バトル」は今後も熱そうだ。

The following two tabs change content below.
言論ドットコム編集部

言論ドットコム編集部

取材・編集経験の豊富な編集部員が森羅万象に切り込んでいきます。