安倍晋三首相は2019年10月の消費税率10%への引き上げに向けて、増税前の駆け込み需要と増税後の反動減を和らげる対策づくりを始めた。柱の1つは、中小店で現金を使わない「キャッシュレス決済」で買い物をした場合、購入額の2%分をポイントで還元する制度だ。ただ、クレジットカードを持たない高齢者や低所得者などは恩恵を受けられず、効果は小さいとの指摘も出ている。このデメリットを補うため、政府は額面以上の買い物ができる「プレミアム付き商品券」発行などの検討もスタートしたが、こちらも大きな消費刺激の効果は期待できず、対策づくりは迷走している。

 2014年4月に消費税率を8%へ引き上げた際、駆け込み需要と反動減の「落差」があまりに大きく、長期の消費低迷と景気減速につながった。政府が検討している対策は、こうした事態が再び繰り返されるのを避けるのが目的だ。

 2%分のポイント還元策は、全ての商品を対象とする。8%に据え置く軽減税率の対象となる食料品もあてはまり、税率はさらに低い6%となる。

 ただ、この対策は効果が徹底しない。高齢者や低所得者、子供などはカードや電子マネーを持たず、対象外から外れるからだ。日本でのキャッシュレス決済の比率は消費全体の2割にとどまっており、この数字だけみても消費全体を底上げすることができないのは明らかだ。

 制度設計そのものもスムーズにいきそうにない。まず、どの範囲までの小売店を「中小」に位置付けるか定義が難しい。「キャッシュレス決済」という概念も、たとえばQRコードを使った決済まで含めるのか、といった線引きは容易でない。

 小売店にとっては、ポイント還元を行うためのレジ改修といった設備投資が新たに必要となり、負担である。そもそも、軽減税率への対応に必要なレジ改修も進んでいない。日本商工会議所の最近の調査結果よると、レジ改修などの準備を進めている事業者は2割程度しかいないという。

 政府は還元制度の導入に向け、小売店からカード業界が取る手数料の引き下げを求める考えだ。だが、カード業界は手数料で得たお金を人件費などに充てており、手数料が減れば、業績が大きな打撃を受ける。今後、カード業界の反発が強まる可能性がある。

 こうした問題点の指摘を受け、政府はカードを持たない人のために「プレミアム付き商品券」の導入を検討し始めている。
1万円で購入した商品券を使えば、1万円を超える買い物ができるというもので、自治体が発行し、上乗せ分の経費を国が補填する。実は、これまでも発行されたことがあるが「消費押し上げの効果はあまりなかった」という見方が有力だ。

 このほか、8%への増税時に需要変動が大きかった自動車と住宅の購入支援策も考えられている。自動車は、取得するときにかかる燃費に応じた課税の一時的な減免などを検討し、住宅はローン減税を延長・拡充したりする。ところが、たとえば自動車の場合、ディーラーは早くも客へ、増税前に買い急ぐことを勧め始めている。駆け込み需要が高まるのは間違いなく、8%への増税時の「二の舞」となりなそうだ。

 対策のメニューを政府がいくら打ち出しても、増税後の消費刺激につながらなかったり、増税前の駆け込み需要をあおったりするだけだったら何の意味もない。ただのバラマキに終わり、日本の財政を悪化させるだけになる。

 安倍首相は10月15日に臨時閣議を開き、予定通り増税する方針と景気下支え策を取りまとめる考えを改めて表明した。早めの表明で、業界や関係省庁に対応を急がせるのが狙いだ。だが、浮上している増税対策は、これまで見てきたように、すでに国民の混乱や戸惑いを生んでいる。これ以上、混乱が広がるようならば増税そのものの延期を求める声が強まるのは間違いないだろう。

The following two tabs change content below.