安倍晋三首相の「頭痛の種」とも言えた地方選挙での連敗が「5」でストップした。保守陣営が分裂した10月28日投開票の新潟市長選は、野党共闘の候補者らとの対決の行方が不安視されたが、自民党本部が支持した中原八一元参議院議員が初当選。9月の沖縄知事選から続いた自民系候補の連敗はストップした。地方選での敗北が気掛かりだった自民党幹部は安堵の表情に包まれているが、相次ぐ保守分裂選挙には連立のパートナーである公明党の支持層に戸惑う声も出ており、自民党は統一地方選と参議院選挙がある来年に向けて態勢立て直しが迫られそうだ。

 悪い流れは断ち切れたのか―。新潟市長選で勝利をつかんだ自民党だが、その勝敗の行方はギリギリまで分からなかった。前市長の退任に伴う16年ぶりの新人対決は、元市議会議員や元経済産業省職員ら4人の争いとなり、計算通りに票を積み上げることが難しい戦いを強いられた。

 中原氏は、自民党の二階俊博幹事長が率いる「志帥会」(二階派)所属の元参議院議員で、選挙中には二階派の伊吹文明元衆議院議長や片山さつき地方創生担当相らが応援に入った。だが、自民系候補を一本化できなかった党新潟県連の中には、前市議会議員(自民)の吉田孝志氏の支援に回る人々もおり、自主投票にした公明党の支持層は各社の出口調査を見ても中原氏、吉田氏に分かれてしまった。

 中原氏の勝因は何だったのか。そもそもの構図は、野党共闘で臨んだ前市議会議員の小柳聡氏が保守分裂の間隙を縫う形で有利になるはずだったが、「自民系の市議だった吉田氏が思いのほか、前市長の批判票の受け皿になり、野党系候補に入ると思われた票を食った。その結果、吉田氏と小柳氏への票が分散された」(地元テレビ記者)とみられる。

 立憲民主、国民民主、共産、自由、社民の野党各党は小柳氏を支持し、連合新潟も推薦して「与野党対決」の構図に持ち込んだが、6月の新潟県知事選に引き続き勝利をつかむことはできなかった。

 今回の新潟市長選の結果は、地方選挙における1勝にすぎないが、自民党本部にとっては大きな意味を持つ。それは、来年迎える統一地方選と参議院選挙での「選挙の顔」が安倍首相(自民党総裁)であることに異論が出にくくなったからだ。国政選挙での連戦連勝が安倍首相の求心力を支えてきたが、地方選挙での連敗が続いていけば「安倍首相では選挙を戦えない」との声が地方から寄せられる恐れがあった。
  
 実際、菅義偉官房長官や二階幹事長、小泉進次郎筆頭副幹事長(当時)ら閣僚や党幹部が何度も応援に入った9月30日の沖縄県知事選は約8万票差で大敗。その後も10月14日の沖縄県豊見城市長選、千葉県君津市長選では保守が分裂して倒れ、知事選でのリベンジを誓った10月21日の沖縄県那覇市長選や兵庫県川西市長選でも惨敗。地方選挙で自民党が支援する候補は5連敗中だった。

 だが、今回の新潟市長選での勝利に加え、もう1つの不安材料だった来年1月27日の山梨県知事選は保守分裂選挙に向かうと見られたが、剛腕・二階幹事長を中心にそうした流れを回避。10月27日には、衆議院山梨2区で自民党の堀内詔子衆議院議員と激しく対立してきた元衆議院議員の長崎幸太郎氏を推薦することで一致。現職の後藤斎知事に自民系候補で挑む構図が固まった。新・新潟市長になる中原氏と同じく、長崎氏は志帥会(二階派)に所属し、2017年10月の衆議院選挙で落選後は二階幹事長の「政策補佐」に任命されており、保守分裂選挙で不安視された2つの地方選で連勝すれば、二階幹事長の評価はさらに高まることになりそうだ。

 ただ、「選挙イヤー」となる2019年に向けては大きな「壁」がある。それは、公明党の存在だ。安倍首相は悲願である憲法改正に向けて、臨時国会や来年の通常国会でアクセルを踏み込んでいく考えだが、公明党は「拙速な議論は避けるべき」(山口那津男代表)との慎重姿勢を崩していない。

 首相サイドは、これまでは安定した政権運営を重視して公明党の声に配慮してきたものの、最後となった安倍首相の自民党総裁任期は2021年9月までしかなく、時間的な余裕はなくなってきているのが実情でもある。憲法改正のための発議に必要な衆議院と参議院の「3分の2以上」の改憲勢力は現時点で維持しているが、2019年夏の参議院選挙の結果次第では足りなくなる可能性がある。

 このため、10月28日のNHK番組で萩生田光一自民党幹事長代行は「作業を前に進める臨時国会にしたい」と改憲に向け環境整備を急ぎたい考えをにじませたが、公明党の斉藤鉄夫幹事長は「与野党の幅広い合意が形成されているという状況ではない」と慎重な見方を示した。

 首相再登板から約6年が経つ中、安倍首相が憲法改正へアクセルを踏めば、来年の統一地方選や参議院選挙で公明党の「応援」が得られにくくなるのではないかとの不安もよぎるが、公明党の「顔」を立てて選挙ばかりを気にしていては、自らの悲願である憲法改正は遠ざかる。このジレンマをどのように解決し、「レガシー」をのこしていく宰相になるか。「平成の大宰相」の悩みは続きそうだ。

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