新聞への軽減税率適用が正式決定したのは、2015年12月に2016年度税制改正大綱が閣議決定された時だ。それまでの新聞業界による政府側へのロビー活動は激しいものだった。新聞業界が軽減税率を求めたのは、ただでさえインターネットの普及などで「新聞離れ」が進む中、税率が高くなって「値上がり」すれば読者減につながり、経営を直撃することを恐れたからだった。当時の財務省主税局幹部は「新聞に軽減税率を適用するか否かは複雑な権力ゲームだった」と振り返る。

 2017年4月に消費税税率を10%に引き上げることを前提にした税制改正大綱の作業は、その「負担軽減策」が焦点だった。麻生太郎財務相は「複数の税率を入れるのは面倒くさい」として、財務省が練り上げた「還付方式」の制度案でいく構えを見せていた。これに最初に反発したのは、公明党だ。生活必需品の税率を低くおさえる軽減税率の導入は公明党が「一丁目一番地」に据えており、支持者に顔向けできなくなる。時同じくして財務省案に反対したのは新聞業界だ。

 「読売新聞は、反対のスタンスでやる」。改正共通番号制度関連法(マイナンバー法)が成立した直後、読売新聞は財務省案をスクープ。そして、連日のように同案の問題点を報じるキャンペーンを張った。読売新聞幹部は全国紙の上層部にも反対する考えを伝達し、新聞業界の猛反撃が始まった。

 読売新聞には、財務省幹部が「主筆様」と呼んで恐れる渡辺恒雄主筆が君臨する。古くから与野党に太いパイプを持つ渡辺氏は、安倍晋三首相の「指南役」的な存在としても知られ、財務省は「絶対に怒らせてはいけない人物」(幹部)と位置づけ、同省幹部人事の際には新旧事務次官らが「主筆様」への挨拶に足を運んできた。だが、財務省が練り上げた軽減税率に代わる「負担軽減策」は新聞業界の期待とは乖離しており、財務省幹部が「日本型軽減税率制度案」と題して安倍首相サイドや与党の一部に根回しを展開したことは火に油を注いだ。渡辺氏と親しい自民党重鎮の伊吹文明元衆院議長は派閥で「非常にみっともない案だ」と歩調を合わせ、自民党内に批判論は一気に広がった。

 財務省側にも「言い分」はあった。同省が「日本型軽減税率制度」の検討に入ったのはその年の春。自民、公明両党は「軽減税率の導入」で合意しているものの制度設計が難航し、議論のたたき台をつくるよう与党側から依頼されたのが発端だった。主税局がまとめた案は、自民党税制調査会幹部や公明党幹部と共に練り上げたものだ。首相官邸の政府高官も実は財務省案を一時後押ししていた。だが、蓋を開けた途端に袋叩きにあい、財務省のメンツは丸つぶれになったのだ。

 かつて「最強官庁」といわれた財務省の力は、この時点で尽きたといって良いだろう。その後は読者の皆さんもご存じのように、軽減税率の適用対象はどんどん拡大し、最後は敗北した相手である新聞業界に配慮する形で新聞への適用が決まったのである。

 政府にとっては「軽減税率」というプレゼントを与えることによって、批判的な論調を抑える効果も期待できる。今日の新聞記事で目立った消費税増税への反対論は中々みることはできないだろう。

 ただ、新聞への軽減税率適用に「不公平だ」という批判はなお少なくない。知識を得るための手段という意味では雑誌や書籍なども同じだからだ。実際、出版社団体は有害図書を除く書籍や雑誌への軽減税率適用を政府に求めている。

 今年6月には、超党派の国会議員でつくる「活字文化議員連盟」と「子どもの未来を考える議員連盟」が合同総会を開き、書籍や雑誌に軽減税率を適用するよう求める活動方針を採択した。ただ、政府は「有害図書排除の仕組みができていない」などと出版社側の要望を受け付ける様子はない。

 新聞業界のように「力」を持ったところが得をするのか、出版社の「力」が単に足りないのかはさておき、こうした「権力ゲーム」は、公平・中立・簡素であるはずの税のあり方に疑問符をつけてしまうのは残念なことである。

 政治家では、国民民主党の玉木雄一郎代表が10月、ツイッターにこのようにつぶやいた。

 「宅配の新聞だけ8%の軽減税率が適用される。自分たちだけお手盛りのメリットを受けて政権のヨイショ記事を書いて、一方で、国民みんな増税負担しろ?財政再建が大切だ?公平性も公正性もない、簡素でもない、税の基本原則に反する、こんなデタラメな複数税率、認めるわけにはいかない。ほんとデタラメ」

 与党でも自民党の小泉進次郎衆院議員が昨年11月、「(新聞社は)消費税の増税を社説でも求めているのに、自分たちは負担しない。筋が通らない」と話している。だが、こうした批判に紙面で堂々と反論している新聞はみられない。来年10月に予定される10%への引き上げ前までに言論機関から新たな説明はなされるのか。その行方を納税者はしっかり見ていく必要がある。

《他の関連記事も読まれています》

「消費税増税は凍結が良い!これだけの理由」

「【デフレとの戦い】日銀が仕事をしなかったから円高不況が起きた」

「消費税増税、移民政策、日中協調・・・安倍晋三首相は「変節」したのか」

The following two tabs change content below.
1 2