(1)国による都税収奪の流れ

 私が現在の都政(正確には国政も大いに関係する)において、現状維持的な「今」の発想と、「未来」志向の発想とが対峙している問題と考えているのが、平成31年(2019年)度税制改正の問題である。なお、以下の記述に関しては、私たち都民ファーストの会東京都議団の提案により設置された「東京と日本の成長を考える検討会」による「東京と日本の成長を考える検討会報告書-地方自治 真の処方箋-」(以下「検討会報告書」)、東京都税制調査会による「平成30年度東京都税制調査会答申」、そしてそれらを受けた東京都の見解である「地方法人課税の「偏在是正措置」に関する東京都の見解について」の内容も参考にしているため、ご興味のある方は是非それらを参照されたい(検討会報告書と都の見解は東京都財務局、税制調査会答申は主税局のウェブサイトに掲載されている)。

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・ 【平成31(2019)年度税制改正にみる政治の対立軸】『今』か『未来』か」

・ 【平成31(2019)年度税制改正にみる政治の対立軸】『今』か『未来』か②将来世代の利益を意識した政策形成を」

 本年6月に閣議決定された、国の「経済財政運営と改革の基本方針2018」では「地域間財政力格差の拡大に対しては、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系を構築する。地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について検討し、平成31年度税制改正において結論を得る」とされている。
「地方法人課税」が最も多いのは東京都であり、その「税源の偏在を是正する」とされていることの意味は、一言でいえば、東京都から税を奪い他の自治体に分配するということを意味する。一部報道では、数千億円規模の都税が国の主導により、他の自治体に分配される可能性が指摘されている。「東京一極集中」の是正といわれるが、私にはこの措置は、以下の通り、現状維持の対症療法的な発想に基づくものとしか考えられない。

(2)東京都への投資は高い投資効果・波及効果を有する

 現在、東京都は、森記念財団都市戦略研究所が公表する世界の都市総合ランキング(GPCI)で3位に位置するなど都市として高い競争力を保持しているが、これは決して東京都だけにメリットがあるものではなく、日本全体に対して大きなメリットがあるものである。

 まず、東京都への投資は日本の他の地域に対する投資よりも投資効果が高い。東京都には都市の多くの機能が集積する集積のメリットや高い労働生産性により、これまで継続的に、日本全体の約1割の人口で国内総生産の約2割を創出してきた。生産関数を用いた経済学的分析によれば、例えば東京都に100万円投資した場合には、国内総生産は27万円増加するとされている一方で、東京都以外の他の地域に同じく100万円投資した場合には、最大12万円程度の国内総生産の増加しか見込めないとされている。これは、東京都への投資は他の地域への投資より、2倍以上高い効果をもたらすことを意味する。

 現にこれまでも東京都は、海外からみた日本の玄関口として、観光・産業等の様々な分野で多くの経済波及効果を他の地域にも生み出してきた。都の試算によれば、東京2020大会の都外への経済波及効果は約11兆9000億円にも及ぶとされている。また、検討会報告書には、東京の国際競争力強化のために必要な取組として、羽田空港の機能強化、外かく環状道路の早期整備、ユニバーサルデザインの促進、外国人受入環境の向上等の6分野が挙げられており、その都外への経済波及効果は合計約11兆3000億円にも及ぶとされている。

(3)東京がこければ日本全体がこける

 しばしば、「世界の都市間競争の激化」が語られる。新しい活力を生み出す源泉である「ヒト・モノ・カネ・情報」が、経済活動のグローバル化に伴い、過去の中心的枠組である「国家」を飛び越え瞬時に移動する時代が到来した。これはつまり「ヒト・モノ・カネ・情報」を「国家」より小さい単位である「都市」に集積させて集積のメリットを得ることにより、新たな活力・持続的成長を生み出していくことが重要な戦略となる時代になったといえる。国全体の持続的成長を実現するための都市の競争力確保の重要性は世界各国で認識されており、イギリスでは、ロンドンオリンピック開催に向けてロンドンに対する戦略的投資が行われ、ロンドンオリンピックが開催された2012年には、ロンドンはGPCIで1位となっている。

 GPCIにおいて、日本国内で東京に次いでランクインしている都市は大阪であるが、その順位は28位である。今後、東京の競争力が削がれ国際的な地位が低下した場合、日本のどの都市に対しても、世界から成長の源泉である「ヒト・モノ・カネ・情報」が集まらず、日本が世界から取り残される事態が生じてしまうのではないか。東京都の試算によれば、都が今後も国際金融都市構想の推進や都市再生の取組等を加速させ国際競争力を高める投資が進むことにより、日本のGDPは、現在の約550兆円から、2021年以降には約610兆円まで拡大すると推計されている。他方、東京においてこれらの取組が進まず国際競争力が失われてしまった場合、2021年以降の日本のGDPは約530兆円に縮小してしまうと推計されている。

 私自身も2014年から約2年間、アメリカで暮らしていたが、アジアの国々で言及されるのは中国が中心で次がインド、シンガポール等。非常に残念ながら、日本の国際的地位の低下を強く肌で感じた。この情勢の中で、国が都税を収奪し東京の競争力を削ぐことが本当に適切なのか。東京は世界と日本をつなぐ結節点・玄関口である。「東京がこければ日本全体がこける」という現状を正確に認識しなければならない。

 このように、日本全体の持続的成長のためには東京都の魅力向上がカギになるが、その競争力の維持のためには多額の財源が必要である。例えば、東京都は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会は言うまでもなく、超高齢社会対策、首都直下地震等の防災対策、インフラの更新、待機児童対策など、東京都特有の膨大な財政需要を抱えている。この多額の財政需要を踏まえると、東京都は決して裕福な自治体ではない。

(4)国の「地方創生」には未来像が見えない

 これまでも国による度重なる税制改正により、都は多くの都税を奪われる結果となってきた。平成の30年間における税制改正の都税への影響は、30年間累計でマイナス約6兆円にのぼるとされている。では、この6兆円が地方創生等の日本の発展にどの程度のプラスの影響があったのか、果たして国は示すことができるのか大いに疑問である。

 さらに、税制改正とは別の論点となるが、国は先般、東京一極集中の是正、地方創生の名の下に、東京23区の大学の定員増を抑制する法律を制定した。この措置も、希望の大学に向かってまさしく人生をかけて努力をしてきた多くの受験生に多大な影響を及ぼす一方で、地方創生にどの程度のプラスの影響があるのか、果たして国は示すことができるのか大いに疑問である。

 従来の「古い政治」の典型である、近視眼的で証拠(エビデンス)に基づかない単なる印象論との疑念さえあるこれらの国の政策に対して、私は、都民、そして国民として、大きな懸念を抱かざるを得ない。

 国政では現在、「地方創生」が大きな政策課題とされているが、真の地方創生とは、現状維持のために、とりあえず東京都からお金を奪って他の地域にばらまくというものであってはならない。東京都と他の地域のそれぞれが独自に魅力を磨き上げながらも連携を深め、互いに高め合うという未来志向の関係こそ、目指すべき地方創生の姿である。そのためには、地方自治体の自助努力が適切に反映される地方交付税の在り方に代表される、地方税体系の根本的な見直しや、あるべき地方自治の在り方も含めた、「未来」を見据えた包括的な議論が必要であるが、現在の国の地方創生をめぐる議論にはその形跡が見られない。

(5)都民・国民の皆さんへのお願い

 税制改正は国・政府与党が主導して進めるものである。都議会では先般、「地方法人課税の見直しに関する意見書」を可決したものの、残念ながら都議会議員である私は、国の税制改正に直接関与し影響を及ぼすことはできない。

 私が今すぐ出来ることは、このような論考を作成し世に問い、都民・国民の皆さんに問題点を理解していただくことである。そして皆さんから、国会議員、特に東京都選出の国会議員に対して、税制改正、そして地方創生についてどのように考えているのか、声をあげていただきたい。国会議員の考えや行動が「未来」を見据えたものになっているのかどうか、皆さんからも是非問うていただきたい。

 税制改正の問題に限らず、政治の発想を「今」ではなく「未来」を見据えたものに変えていくために、皆さんのお力をいただきながら、長い道のりとなるだろうが一歩一歩着実に進めていきたい。

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東京都議会議員 山田ひろし
東京都議会議員(三鷹市選出)。都民ファーストの会東京都議団 政務調査会長代行。1984年生まれ。東京大学法学部卒・米国コロンビア大学ロースクール法学修士。弁護士・ニューヨーク州弁護士。