憲法に定められた国政調査権に基づく国会での証人喚問は、数々の「名シーン」を描いてきた。その歴史を振り返ると、1976年に表面化したロッキード事件をめぐり証人が繰り返した「記憶にございません」は流行語となり、証人が宣誓書へのサインを手が震えて中々できなかったシーンも耳目を集めた。だが、残念ながら真実の解明に結び付くのはわずかであり、世間のイライラの矛先は時として追及する側の「質問力」にも向かう。そもそも、議員たちはどのように質疑に備えているのだろうか。ベテラン議員でも苦悩するといわれる、その裏側に迫る。

 学校法人「森友学園」への国有地問題をめぐり、3月に佐川宣寿前国税庁長官(前財務省理財局長)が出席した国会の証人喚問は、証言を拒否することが認められた証人喚問の限界や野党による追及の甘さが指摘されている。テレビ中継が入った喚問に各党は「エース級」を投入して臨んだが、刑事訴追の恐れがあることを理由に証言拒否が繰り返され、不完全燃焼で終わった。政治家は各種ヒアリングや党派内の議論などで鍛錬を積んでいるが、新事実を引き出せなかったのは、議員の「質問力」が低いと厳しい指摘が投げかけられた。

 「国会議員に任せるとやっぱりこうなるな。立証目的、獲得目標が不明確。訴追対象項目を避け、不動産取引の不適正、問題発覚後の政権の監督責任を確認すべき。質問者がクルクル変わるやり方は意味なし。国政調査権に基づいて強力な権限を付与した第三者調査チームを設置するしかない」。弁護士資格を持ち、論戦の強さに定評がある橋下徹前大阪市長は、佐川氏の証人喚問が行われた3月27日、自身のツイッターにこうつぶやいた。

 佐川氏の証人喚問は、衆議員と参議院で2時間ずつ。参議院は委員長が8分、与党が45分(自民党30分、公明党15分)の持ち時間で、野党は残り時間で6人が質問。衆議院では委員長が10分、与党で1時間(自民党35分、公明党25分)と半分を占め、野党は残る時間で5人が質問に立った。

 最短で1人6分の質問時間となった理由は、衆参両院で圧倒的多数を占める与党が時間配分で野党に譲らなかったことが大きいが、昨年の民進党分裂以降、会派が増加したことも影響している。ただ、3月28日放送の「ひるおび!」(TBS系)で弁護士の八代英輝氏は「佐川氏は国会答弁のような鉄壁ではなかった。いくつも証言にほころびがあり、つけるところを野党議員は全然つけていなかった。それぞれの人の(質問)時間が短いのに全然関連性のないことを聞き、最後に自分の言いたいことをまとめのように喋って終わった。あれでは本当に疑惑を解明しようと思っているのかと思った」と辛辣なコメントだった。

 証人喚問が行われた予算委員会に立つことは、テレビ中継が入ることもあって「花形」といわれる。各党は「質問力」が高いとされるエース級を送るのが慣例で、時として首相や閣僚を辞任にも追い込むガチンコ勝負の場となる。かつて「神演説」と呼ばれた名場面の数々が生まれてきたのも予算委だ。

 では、議員たちの質問づくりは、どのように行われているのか。結論から言えば、官僚の「お膳立て」の影響が大きいだろう。党派で招いた官僚からのヒアリングのみならず、個別に接触し、質問づくりのポイントを押さえていくのだ。電話で問い合わせる場合もあるが、担当職員を事務所に呼んでレクチャーを受けて質問準備をしている。専門性が高い財務省や防衛省などは「ご説明」という形で、あらかじめ省側から「質問項目」を議員側に用意する場合もあるのだ。

 「昨年11月のことだ。森友事件での国有地の取引をめぐり会計検査院の報告が出された。それを受けて予算委で質問することになり、財務省にルール通り質問通告をした。議員会館の部屋にやってきた理財局の幹部は、慣れた動作で1枚の紙を渡してきた。それを見ると、『全体のイメージ』というタイトルで、私は『これは、なんですか』と尋ねた。イメージという形できれいにかざってあるが、書いてあるのは質問項目だった」。3月19日の参院予算委で、自民党の青山繁晴参院議員は「政と官」の実態をこう明かした。

 1回生議員だった青山氏は、こうした慣行に憤りを感じて突き返したというが、政界は国会でも自治体の議会でも、職員による「ご説明」が議員たちの質問づくりに大きな影響を与えているのが実情だ。一部には、こうした慣行が「やらせ質問」と映るものの、自民党の閣僚経験者は「詳しい経緯や細かい数字、専門性の高い項目などは、職員に1つ1つ確認しながら質問をつくらなければ事実関係を間違える」と語る。職員たちは、長らく政権与党の座にある自民党議員に対する「ご説明」を重視しており、こうした経験で知識量が増加して「質問力」が上がる議員もいれば、逆に自分自身では勉強しなくなって力が下がる議員もいるようだ。

 自民党の場合、平日は朝8時から党本部で部会や委員会を開催し、それは夕方まで続く。各省庁の職員たちはそれらに出席するほか、議員に呼ばれれば個別に事務所を訪問して「ご説明」を繰り返している。公務員が一部の奉仕者ではなく、全体の奉仕者であることを考えれば、「ご説明」によって有権者の代弁者である議員たちの「質問力」が上がることは望ましいことでもあるが、猛勉強して名門中学・高校に入り、最高学府を優秀な成績で卒業したエリートたちが、こうした日々を送っているのは、なんだか悲しくも感じる。

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言論ドットコム編集部

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