韓国・平昌冬季五輪のフィギュアスケート男子で、66年ぶりの連覇を達成した羽生結弦選手は「絶対王者」の称号を得たが、権力闘争に明け暮れる政界で、今やその「絶対王者」に王手をかけているのが安倍晋三首相だ。2012年12月の再登板後、「安倍1強」時代を謳歌し、5月29日には連続在任日数が小泉純一郎元首相を抜いて歴代3位となった。9月に予定される自民党総裁選で連続3選を果たせば、憲政史上最長の「レジェンド」が視野に入るが、その思惑通りに展開されるのか。

 7月22日に通常国会が閉会すれば、メディアの関心は「次期宰相」に移る。学校法人「森友学園」や「加計学園」をめぐる問題で、野党から猛追及を受けた安倍内閣の支持率は一時、3割前後にまで急落した。3月の時点では、このような厳しい声が漏れた。「非常につらい目にあっている。党の論理ではなく、責任をもって対応してほしい」。安倍政権への逆風が強まる中、3月24日に開かれた自民党全国幹事長会議では大阪府連の朝倉秀実幹事長がこう執行部に迫った。地方組織からは「誰かが責任をとらないと国民は納得しない」「早くけじめをつけてもらいたい」との厳しい声もあがった。

 安倍首相(自民党総裁)は翌25日の党大会で「森友問題の書き換え問題をめぐり、大変心配をかけて申し訳ない。国民の行政に対する信頼を揺るがす事態となっており、行政の長として責任を痛感している」と陳謝したが、来賓として出席した公明党の山口那津男代表からは「国民の信頼を取り戻さなくてはならない」との注文がつけられた。

 野党はその後、財務省の文書改竄問題などで安倍首相に内閣総辞職を要求したが、攻め手を欠き、4月以降は歴史的な南北首脳会談や米朝首脳会談にニュースのネタを奪われ、「外交の安倍」は復活。各種の内閣支持率は上昇傾向にある。このまま、安倍首相は「レジェンド」となるのか。

 大派閥の支持を固め、連続3選に向けて盤石に見える安倍首相だが、もちろん不安材料はある。1つは、モリ・カケ問題や新たな「スキャンダル」が浮上し、内閣支持率が「20%」程度まで再び下落することだ。政権への直撃はなかったものの、7月4日には文部科学省の現役局長が受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されるなど、想定外の事件も出ており、「総裁選直前で他にもネガティブな材料が出ないとも限らない」(自民党中堅議員)と不安視する向きもある。内閣支持率が自民党の政党支持率よりも高いことが安倍首相の求心力の1つだったが、それが2割近くにまで落ち込めば風向きは一気に変わる可能性があるというわけだ。

 もう1つは、「地方」だ。元々、安倍首相は「連続2期6年まで」と定められていた党のルールを「連続3期9年まで」に変更し、2021年まで長期政権を築くことを描いてきた。再選を果たした2015年の総裁選で全派閥から支持を取り付け、一見すれば、そのシナリオは完璧なようにも映る。だが、その在任期間の長さが、逆に総裁選で「批判票」を生むリスクがある。ある自民党の地方組織幹部は、こう声を潜める。「圧勝した昨年秋の衆院選でも、地方では安倍首相は人気がなかった。中央での感覚と地方は違う。5年も首相の座にいることに飽きてきた人はいるだろう」。

 2012年の総裁選で安倍首相は再登板を果たしたが、実は2位の石破元幹事長に地方の党員票では引き離されている。国会議員票のみの決戦投票で支持を固めなおし、辛くも勝利をつかんでいたのだ。9月の総裁選は、総裁公選規程の改正に伴い地方の党員票の配分が増える。詳しく見ると、2012年は「国会議員票198票、党員票300票」だったが、今回は国会議員票と党員票は「同数の405票」に変更される。決選投票も、これまでは党員票が反映されなかったが、都道府県に各1票が配分されることになる。2012年の総裁選に当てはめれば、言うまでもなく石破氏が「首相・総裁」となっていたわけだ。

 ある自民党担当記者は「流れを決めるキーパーソンは、間違いなく、地方でも人気がある小泉進次郎氏だろう」と語る。2012年の総裁選で石破氏を事実上応援した小泉氏は、森友問題をめぐる安倍首相の対応に嫌悪感があるとされ、「政と官のあるべき距離感、自民党のあり方、ポスト平成の政治の形とは何なのかという平成の政治史に残る大きな事件と向き合っている。(安倍首相の)徹底的な究明をやっていくとの言葉通りの行動を期待している」などと、政権への厳しいコメントを隠さないでいる。

 各種世論調査を見ると、「次期宰相」は石破氏と安倍氏が拮抗しているが、そこで上位につけている小泉氏が再び石破氏とタッグを組めば、「誰に投票するか迷っている議員、党員は雪崩を打って石破氏にいく」(自民党若手議員)と見る向きは少なくない。ただ、「石破氏VS安倍氏」の一騎打ちならば、そうしたシナリオも成り立つ可能性があるが、立候補者が3人、4人と多ければ「反安倍票」が分散し、結局は大派閥の支持を固める安倍首相が有利となるだろう。安倍首相からの「禅譲」を期待してきた岸田文雄政調会長の周囲は「3人出馬する人がいれば、岸田氏は4人目になる」と漏らしており、事実上の安倍支援部隊となるとも囁かれている。6年ぶりの総裁選で「栄光への架け橋」を見ることができるのは誰なのか。通常国会閉会後、いよいよ熱い戦いが始まる。

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言論ドットコム編集部

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