朝鮮半島情勢をめぐり、日本が「蚊帳の外」に置かれているという見方が広がっている。3月の中朝首脳会談、4月の南北首脳会談、そして6月に米朝首脳会談が開催され、関係国の高官級協議も相次ぐ一方で、安倍晋三首相と金正恩朝鮮労働党委員長の会談は実現の見通しが立っていないからだ。

 こうした「蚊帳の外」批判を受け、政権内部の路線対立が激しくなっている。日朝首脳会談の早期実現に関し、谷内正太郎国家安全保障局長や外務省は反対の立場を取っているのに対し、菅義偉官房長官や今井尚哉首相秘書官が積極姿勢を示している。

 谷内氏や外務省も日朝首脳会談自体を否定しているわけではない。安倍首相が焦って金正恩氏との会談を急ぐことで交渉が不利になることを危惧しているのだ。外務省幹部は「トランプ米大統領と金正恩氏の会談で非核化に合意できれば、北朝鮮は必ず見返りを求める。しかし米国も韓国も十分な財政支援を行う余力はない。米国と北朝鮮、韓国がそろって日本に協力を求める構図を持ち込めるかどうかがカギだ」と話す。

 日本政府は2002年の日朝平壌宣言で、国交正常化時に「無償資金協力」や「人道主義的支援」を行うことを約束している。そのときの交渉担当者は外務省の田中均アジア大洋州局長(当時)で、政府関係者は「田中氏は口頭で1兆円の援助を約束したのではないか」と語る。当然、日本政府とすれば国交正常化は拉致問題の解決が前提で、交渉前に少しでも有利な立場を確保するためには「日本から日朝首脳会談をやりたいといってすり寄っては駄目だ」(外務省幹部)というのが谷内氏や外務省の考えだ。

 それでも菅氏や今井氏は、早期の日朝首脳会談を模索しており、自民党内部からも「低迷する安倍内閣の支持率を底上げする手段として考えているのではないか」(幹部)との憶測が浮かんでいる。森友学園問題や加計学園問題、さらに財務省のセクハラ発言問題や公文書改ざん問題などでダメージを負った政権にとって、「安倍・金正恩」会談の実現は支持率回復の一手になると与党関係者は見る。

 ただ、軍事力を背景に交渉力を世界に見せつける米国とは異なり、日本は北朝鮮に突き付ける外交カードを持たない。安倍首相からの度重なる要請を受けて、トランプ大統領は米朝首脳会談で拉致問題を提起したが、どこまで問題解決に関与するのかは見通せない。朝鮮戦争の終結を最優先とする韓国も同様で、日本の要求は二の次になるのは当然だろう。

 「悪い癖を捨てない限り、1億年たっても共和国の神聖な土地を踏めないだろう」。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は5月6日、日本政府の姿勢を批判する論評を掲載。「今のように『制裁』や『圧迫』という陳腐な言葉を繰り返していたら、いつまでも仲間外れから逃れられない」とも指摘した。日本が最大限の「圧力」を続けることを韓国や米国に働きかける姿勢に対して、北朝鮮の苛立ちが募っているのは明らかだが、この状況から事態を好転させる方策はなお見つかっていない。

 現段階では、トランプ米政権や金正恩氏の出方がなお予測不可能なこともあり、明確な判断を下させないのが実情でもあるが、長期的な視野に立った上で拉致問題解決を図るか、それとも一日でも早い局面打開を図るのか。政権内部の路線は定まらないでいる。

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