6月の歴史的な米朝首脳会談の後に注目されているのが、在韓米軍の縮小・撤退がありえるのか否かだ。米国のトランプ大統領は首脳会談で協議されなかったとしたものの、「できるだけ早く(在韓米軍を)撤退させたい」などと将来的な縮小・撤退の可能性に言及し、同盟関係にある日本や韓国に衝撃を与えている。日本の外務省関係者は「ありえるとしても相当先の話」と冷静に見ているが、常識外れの交渉術を繰り広げるトランプ氏だけにまさかの展開が訪れる日がくるかもしれない。

 米朝首脳会談を受けて米韓合同軍事演習の中断を決めたトランプ大統領は元々、在韓米軍について「われわれはとても大きな貿易赤字を韓国との間で抱えているのに、彼らを防衛している」とのスタンスで、北朝鮮との関係改善が今後進展すれば大胆な決断を下すとの懸念は消えない。2018年末には在韓米軍駐留経費に関する米韓協定が期限切れを迎えるため、韓国が現行の半額負担から全額負担に切り替えなければ「撤退」も現実味を増す。

 韓国の文在寅大統領は7月12日、シンガポール有力紙の書面インタビューで「韓米同盟の問題であり、米朝間の非核化交渉の過程で議論される議題ではない」と牽制したが、文政権の外交ブレーンを務める文正仁統一外交安保特別補佐官は、かつて米紙「フォーリン・アフェアーズ」に掲載した論文で、休戦状態が続く朝鮮戦争が終結すれば「在韓米軍を正当化するのは難しくなり、文政権は政治的ジレンマに直面する」と指摘している。

 文大統領がインタビューで「韓米両国は朝鮮半島と北東アジアの平和・安定のための在韓米軍の役割と重要性について、確固たる立場を堅持している」と強調したように、在韓米軍は北朝鮮を抑止するだけのために存在しているわけではない。米韓両政府は在韓米軍について、アジア太平洋地域の安定を維持するためにも存在すると位置づけており、仮に南北朝鮮が平和協定を締結しても、軍事プレゼンスを増す中国を抑止するためには在韓米軍が引き続き必要となる。

 とはいえ、文政権は在韓米軍に反感を持つリベラル層の支持に支えられており、今後予想される世論の圧力に屈して在韓米軍撤退を求めざるを得なくなるシナリオは十分に成り立つ。財政負担軽減を課題とするトランプ大統領にとっても渡りに船で、安全保障の専門家がありえない話と繰り返してみても、米韓トップの思惑が一致して縮小・撤退が決まる可能性もある。

 仮に在韓米軍2万8000人が縮小・撤退すれば、日本への影響は決して少なくない。アジア太平洋の安定のためには「在韓米軍」の穴埋めが必要となり、日本には「新たな負担」が生じることが予想される。

 それは、在韓米軍の「移設先」として浮上することを意味する。すでに約70%の米軍専用施設を抱える沖縄県に新たな米軍を迎え入れる余地は政治的にも機能的にもない。沖縄県以外での受け入れが可能かどうかを検討することになるが、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先に本土が選ばれなかった理由から考えても、その交渉が難航を極めるのは明らかだ。
現在のところ、北朝鮮の非核化をめぐる協議では「蚊帳の外」におかれている日本だが、協議の進展次第では思わぬ「代償」を払う危険性も出てきている。

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