台湾の李登輝元総統が動きを活発化している。4月に台湾独立を問う住民投票を目指す政治運動「喜楽島連盟」の発足式典に出席して運動への支持を表明すると、6月には台湾人日本兵らの慰霊碑除幕のために訪問した沖縄で、中国の覇権主義に対抗するべく「日米台」の連携を呼びかけた。総統を退任してから18年を経た95歳の李氏を突き動かすものは何なのか。
 
 一般的に「台湾独立派」とみなされ、中国政府からもそう名指しされる李氏だが、「台湾独立運動」を明確には支持していない。台湾は中国(中華人民共和国)とは異なる「独立した主権国家」であり、改めて独立宣言をする必要はない、というのが李氏の立場だ。だが、1949年の「中台分断」で台湾に移った「中華民国」政権の政治体制は中国大陸を含む地域の統治を前提としているため、台湾の実情に合わせた憲法改正や「国号」の変更など、「国家の正常化」が必要だとしてきた。
 
 その意味で、李氏と台湾人の「台湾独立」の意志を内外に顕示したい喜楽島連盟とは、同床異夢とは言い過ぎにしても、根本のところでは論理が異なる。両者は方向性で一致しているため、政治的に同調していると理解すべきだ。
 
 その背景にあるのは、中台関係の「現状維持」を掲げる蔡英文総統への不満だろう。民主進歩党は元来、「台湾独立」を掲げるリベラル派勢力が結集してできた政党だ。喜楽島連盟に結集した台湾独立派は、伝統的な民進党支持者。中国が硬軟織り交ぜた手法で台湾統一への圧力をかける中、蔡総統の対中〝弱腰〟姿勢にしびれを切らして運動に踏み切った形で、李氏もその例外ではない。
 
 さらに蔡政権は、対日関係でも行き詰まりがうかがえる。民間では双方に「親日」「親台」の流れが定着し、首脳同士がツイッターで投稿し合う様子が報道されているものの、日本政府が重視する福島など5県産食品の輸入解禁問題では進展がみられていない。台湾では、日台関係は「民熱政冷」との評価もある。日本統治時代に高等教育を受け、「日本人以上に日本的」とも評される李氏が、この状態を快く思うはずもない。高齢を押してまで訪日し、日台の連携の必要を説く李氏の言葉は、近年まれにみる親台派政権である安倍晋三政権の下で日台関係を深化させる機会をみすみす逃している、蔡政権への苦言とも受け取れる。
 
 ただ、 日本人が誤解してはならないのは、李氏の時に「反中的」であり、時に「親日的」な言動の根源にあるのは、それが「台湾のため」との思いからであるということだ。李氏は6月24日、沖縄県糸満市の平和祈念公園で行われた台湾出身戦没者の慰霊祭で、「台湾人たる私は台湾を愛し、わが人生を台湾のために捧げるつもりでやってまいりました」と挨拶した。李氏の行動の原点にあるのは、日本統治時代の記憶や歴史を含む「台湾」そのものを愛し、守ることに他ならない。

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