「数十年以内に米中戦争が起こりうる可能性は、ただ『ある』というだけでなく、現在考えられているよりも非常に高い」(G・アリソン「米中戦争前夜」)。

 古代ギリシア時代、内陸指向の覇権国スパルタは海の新興勢力アテネの台頭に恐怖心を抱くようになりました。「覇権国vs新興国」の戦争も辞さない深刻な対立を、当時の歴史家の名をとって「ツキディデスの罠」と呼びます。

 アリソン教授によれば、過去500年間の覇権争い16例中、戦争を回避できたのはたったの4例。つまり、4分の3は戦争に。日露戦争や英独の対立から起きた第一次世界大戦、日米戦争もその中に含まれます。

 一方、かつての米ソ冷戦は戦争も不可能だが、平和も不可能な状態(レイモン・アロン)の中で、単独行動の応酬が行われました。しかし、キューバ危機のように全面戦争は回避。小学校5年生だった私も全面核戦争の恐怖におびえていましたが、あの時の安堵感は鮮明に覚えています。

 「Make America Great Again」と叫ぶトランプ大統領の米国と、文明の中心地域として世界に君臨する中華帝国を目指す習近平主席の中国は、ツキディデスの罠に陥る典型例です。

 IMF報告によれば、米中の購買力平価でのGDP比較において、すでにオバマ政権下の2014年、中国がアメリカを追い越したと。オバマ時代の政策をことごとく否定するトランプ政権の背景にある真実です。

 覇権を巡る米中「貿易戦争」はいかに。米中貿易交渉は今のところうまくいっているようですが、パクリ天国・中国の知的所有権など構造問題は進展なし。こっちの方が根は深い。なにせ、盗んだ技術で超低コストの武器を作れてしまうのですからね。

 いずれにしても2月末までに目先の結論が出ます。「貿易戦争」が深刻化した場合、アメリカの25%関税に対する中国の究極リベンジが米国に対する25%関税の応酬ならブーメラン効果で米国経済を強打します。

 さらに人民元のドル切り下げまで行くと日本も混乱必至ですね。人民元が売られたチャイナショック(2016年)の折り、円が急騰したように、日本も超円高に見舞われる恐れがあります。

 習近平主席は、日本がかつて巨大な対米黒字を批判され、プラザ合意による超円高・バブルの生成・崩壊・大量の不良債権・金融危機・デフレ突入に至る経済敗戦を徹底して教訓にしていると言われています。

 私が1999年頃に書いた論文では不良債権処理・過剰債務と過剰供給構造の是正(金融・産業一体再生)を行うと同時に、財政をふかし金融を緩和する日本再生を訴えていますが、中国が今やっている政策は全く同じコンセプトに基づいているように思えてなりません。

 平成元年に421兆円だった日本の名目GDPが未だ557兆円。この30年で1.3倍にしかなっていません。ちなみにアメリカは30年で3.6倍、中国は人民元ベースで51倍にふくらんでいます。

 日本の経済敗戦を招いた最初の切っ掛けは、平成元年に消費増税後、物価も上がっていないのにバブル潰しのため金融引き締めを三重野日銀がやったことです。つまり、改元というエントロピーを一掃し新しいエネルギーを吹き込む年に、マクロ経済政策の国家経営を間違え、人心を千々に乱れさせしまった。

 その後は暖房かけるべき時(積極財政・金融緩和)に、冷房(増税・金融引き締め)かけることの繰り返し。やはり、日本の取るべき道は経済復活を第一とする路線の強化です。

 中国の影響力増大を見てもわかるように、新しいパワーバランスは強い経済力の比重が大きくなっているのです。地経学(geoeconomics)とは、経済的手段(貿易・投資・制裁・サイバー攻撃・対外援助等)によって地政学的目標を達成すること、とアリソン教授は指摘します。

 近未来に中国はロシアと対米反制裁同盟を結ぶかもしれない(名越健郎 Foresight 2019年1月15日)。朝鮮戦争の休戦協定締結と国連軍(米軍)撤退後、北朝鮮や経済的に没落し反日となった韓国まで従えるようになるかもしれません。

 あながち荒唐無稽とも言えないこうした事態も考えるならば、日米同盟のもと、日本がまともな経済成長をとげることが新しいパワーバランスにとっていかに重要であるかを肝に銘じなければなりません。

 今年は、消費税増税に加え日銀金融緩和の「出口」論がより喧しくなるでしょう。パウエルFRB議長が金利引き上げ打ち止めを示唆する中で、黒田日銀は相変わらず様子見。かつての黒田バズーカはいずれも増税支援のため行われてきたと言っても過言ではありません。円高が進行し易い時、日銀が洞ヶ峠を決め込めば今年もデフレ脱却宣言は困難になるでしょう。

 日本は元号の変わる今年、名目成長率4%以上など金輪際できっこないという敗北主義から脱却しなければなりません。積極財政・金融緩和の一体政策をより進め、消費増税など国家の小事に過ぎないことはこの際、改元前の4月中に凍結すべきです。

 私自身は「増税の前にやるべきことがある」を掲げ、日本を輝ける成長国家とするべく、「みんなの党」を復興いたします。

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参議院議員 渡辺喜美

参議院議員 渡辺喜美

1952年3月17日、栃木県那須塩原市生まれ。早稲田大政治経済学部・中央大法学部卒。渡辺美智雄元通産相の秘書を務めた後、1996年の衆院選で初当選。2006年の第1次安倍晋三内閣や福田康夫内閣で行革担当相や金融担当相を務め、国家公務員の天下り規制を盛り込んだ国家公務員法改正を実現。2009年、みんなの党を創設し、代表に就任した。2016年の参議院選挙で当選し、日本維新の会副代表を務めた後、現在は無所属の参議院議員として活躍している。