前回の寄稿の結びで、介護保険制度の課題として「将来の財源不足」と「慢性的な人手不足」の二点を挙げました。今回の寄稿では、不安視されている「将来の財源不足」について、考察と解決策について論じていきます。
 
 財務省は2016年度予算における社会保障4経費の赤字を14.5兆円としており、これを予算額で按分すると介護保険の財政赤字は年間約1.5兆円になると試算されます。介護ニーズに比例して急増している介護給付費(2016年の予算ベースで9.6兆円)に対して、保険者はどのようにして費用を賄い、財政を維持していけばよいのでしょうか。

 介護保険の財源は、保険料と公費で50%ずつ賄っています。保険料部分の内訳を見てみると、65歳以上の第1号被保険者納付分が22%、40歳以上65歳未満の第2号被保険者納付分が28%となっています。介護保険の受給者(介護保険のサービスを利用している人)は主に第1号被保険者であり、介護保険の恩恵を受けていない現役世代が、高齢者を支えている構図になっています。

 介護給付費の歳出は、毎年3~5%程度の割合で増加を続けています。いわゆる団塊の世代が65歳を超えたことによる影響もあって高齢人口が増えたことに加え、施行から20年近くが経ち、介護保険制度がより身近で使いやすいものなったということもうかがえますが、歳出が増えれば増えるほど、財源の維持・確保という課題は色濃くなっていきます。
 
 課題の解決方法としては、保険料やサービスを利用した際の利用者負担を増やすことがまず挙げられるでしょう。実際にこの15年間の保険料の推移を見てみると、第1号被保険者が189%、第2号被保険者が247%の上昇率をたどっています。利用者負担についても、2018年8月より一定所得以上の方に対して3割負担の枠が設けられました。

 また、介護給付費を抑制するための方法としては、施設介護から在宅介護への転換を促進することが考えられます。施設介護の平均費用は、一人当たり月額で約29万円かかっており、在宅介護の約11万円と比べ、倍以上となっています。厚生労働省でも、これまでの審議会等で施設から在宅への転換を進めていくために、特別養護老人ホームへの入所を原則要介護3以上と制限を設ける、介護療養病床を廃止し介護医療院へ順次転換して行く(2024年3月末までに経過措置期間を延長)等の取り組みを行ってきました。

 2025年には163万人にまで膨らむと予測される施設利用者数を131万人にとどめることが出来た場合、単純計算で約6500億円の介護給付費抑制につながることになります。そのためにも、安心して「在宅介護」という選択ができるよう、地域における医療と介護の連携強化にも注力して行く必要があります。

 現在議論が進んでいる、「地域包括ケアシステム」の構築も、介護給付費抑制の一翼を担うものとして考えられます。高齢者が住みなれた地域で生活できるように、医療・看護・介護サービスを一括管理して提供しようというこの取り組みには、「自助・互助・共助・公助」の4つの力を連携させていこうという視点があります。

 共助(介護保険)と公助(生活保護)は予算が限られているため、自己管理の自助とボランティア等の互助へ意識を向けて行くことが方針として示されています。具体的には、現状介護保険で提供している「介護予防訪問介護」と「介護予防通所介護」をゆくゆくはボランティアによる支援に移行していこうという構想があり、この事業が上手く運用され、更に介護予防が功を奏すれば、介護給付費の削減のみではなく、将来的な給付費抑制も期待できます。
 
 厚生労働省の介護給付費抑制方針を踏まえて、民間の介護保険事業者が担うべき取り組みについて、考察します。「施設から在宅へ」を叶えるためには、在宅サービスの拡充が求められます。安心して「在宅」という選択ができるようにするためには、医療・介護の連携が必要です。先述した地域包括ケアシステム等でも推進はされているものの、医療と介護の間でのリアルタイムの情報共有等はほとんどなされておらず、バラバラであるといった印象を受けるのが現状です。

 解決に向けて、情報共有アプリやタブレット端末を活用し、オンラインによる多職種間の情報共有や提供依頼を可能にするための動きが見られており、これまでFAXや郵送等でやり取りしていた部分が効率化、省力化されようとしています。パスワード管理等、セキュリティ体制の強化が課題として浮上はしますが、期待していきたいところです。

 また、看取りについての不安を解消していくことも在宅介護を考える上では重要になってきます。終の棲家として看取りの体制を整えている特別養護老人ホーム等であっても、ご入居者の急変時等は、ご家族の意向を確認し、救急搬送をした結果病院で亡くなるといったことが見られています。早い段階から最期をどう迎えたいのかを決めておき、そのための体制を整えておくことで、在宅での看取り介護を充実したものに出来るのではないでしょうか。

 とはいえ、どんなに在宅での最期を望んでいても、それが叶う住環境が整っていなければ、在宅介護を継続することは難しいでしょう。病院や施設のように、車椅子でも移動できるような全面バリアフリーの住宅であれば別ですが、多くの場合、改修や転居等も視野に入れなければなりません。

 自宅で最期を迎えるためには、支援の体制だけではなく、お金や住まいの準備も必要になってきます。医療・介護の連携、在宅での看取り体制の強化、在宅介護を継続する上でのお金や住まいの準備支援、この3つが保障されることで、初めて施設介護から在宅介護への流れが確立されるのではないでしょうか。

 「施設から在宅へ」の方法が確立されたとしても、その担い手がいなければ要介護者の望む暮らしに還元されることには繋がりません。次回の寄稿では、もう一つの課題として挙げた、「慢性的な人手不足」について論じていきたいと思います。

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ケアリッツ・アンド・パートナーズ 宮本剛宏
慶應義塾大学環境情報学部卒。繊維メーカーやITコンサルティング会社を経て、訪問介護を中心とする介護事業で2008年に起業。株式会社ケアリッツ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。