言論ドットコム編集部は今回、現役の国家公務員と共に【イマドキの公務員シリーズ】をスタートしました。何かと話題になることが多い「国家公務員」について、なるべく平易な言葉で、わかりやすく、行政のあり方の議論の材料となるようなものをお伝えしていきたいと思います。第3回は、反響のあった第1回の続編を兼ねて、経済産業省等で起こった覚醒剤事件も振り返ってみます。

■覚醒剤事件とは 

 今年のGW直前に、経済産業省の総合職の課長補佐が職場内で覚醒剤を密輸して使用していたのではないか、というニュースが世間をにぎわせた。ちょうど第1回目で経産省は課長補佐に早いと3年目でなるという話題を掲載させていただいたが、実は関連性もあるという話をさせていただきたい。

■超エリートの不正事案なのか、それとも…

 まず、はじめに「覚醒剤」の使用は言語道断で何をもっても言い訳はできない事案だったと筆者は思う。国家公務員の信用の失墜行為としては十分だ。この会ではその是非を語るというよりはそのような事案の背景の知識について正確にわかりやすく伝えることに重点を置きたい。

 容疑者のN氏は28歳で自動車課課長補佐であるという経歴が報じられたため「そんな出世頭が捕まったのか」「プレッシャーか」などいろいろなコメントがネットニュースについた。

 本件について公表情報(経済産業省の報道発表等)を踏まえてみると、このN氏は入省時の2013年時においては、資源エネルギー庁新エネルギー課に在籍して、2015年時には自動車課の自動車リサイクル室の担当補佐として着任したとのことだ。

※前回の復習:経産省は3年目で課長補佐を名乗る場合があるというケースがあるというものにまさに合致する。

 さらに、筆者が経済産業省の職員に聞いてみたところ、それぞれの室は以下のような状況とのことだ。

(資源エネルギー庁新エネルギー課)

・FIT法(太陽光エネルギーで発電した電力を高い価格で買い取り消費者が負担する制度)の執行もありとてつもなく忙しかった

・上記の通り忙しく、重要な部署であるためできる職員と見なされて配属されたと思われる。そのためかなりのハードワークを課されていたようだ。

(自動車課自動車リサイクル室)

・人数は6名程度の室。包み隠さずいえば暇なポスト。さほど重要ではない。

・このN氏以外は一般職のメンバーから構成される

・自動車課の本課に比べると内容的にはルーチンワーク。3年で着任したN氏に期待されたのは比較的落ち着いたポストでしっかりと部下を使えるようになること

・自動車リサイクル法は経済産業省と環境省の共管法(2つの省庁が管理している)だったが、環境省がイニシャティブをこの時期にとっていた

・しばらくこない時期も続いていたのもあり、通常2年で異動なところを課内異動をして、自動車リサイクルの担当から別の自動車関連の案件の担当となった。このため2015年に着任して2019年にも自動車課に在籍している。

■問題の本質は別ではないか。新人を大切にしよう

 以上を踏まえると、はっきりと述べれば、どんどん出世していたエースが仕事の辛さから覚醒剤に手をだしたというよりは、期待されていた新人だったが無理がたたったということだ。一部報道によれば、N氏は落ち着いたポストにきていろいろ考える時間ができたら、自分の将来にも不安を覚えてうつ病症状がでており、その流れから薬に手を染めてしまったとうことだが、他の状況証拠からもこのように考えて差し支えないだろう。

 そのため、筆者はテレビも含めたコメンテーターの無責任な解説は少しいかがなものかたと思った。期待されるエースが覚醒剤に手を染めたというスト―リーのほうがわかりやすというのも理解はできるが、実際は新人をこき使いすぎてしまった当時の新エネルギー課のマネージメント体制のほうが課題だと思われる。

 自動車課は正直なところとばっちりもいいところだろう。問題の本質は、自動車業界の政治的なもめ事でもなんでもなく、経済産業省が新人を大事にできるかどうかだけというのが本質だ。疲れすぎては動けなくもなるし、彼の心のケアがあれば防げた問題だったろう。

■経産省における出世の見るべきポイント

 一見「同期より早く課長補佐だ、出世だ」というのはわかりやすい。しかし、経済産業省は必ずしもそうではない。

 N氏と同期で出世頭と呼ばれる別の職員は同時期に大臣官房総務課の係長だったそうだ。一見すうと係長よりも課長補佐のほうが偉いが、大臣官房は各部局に指示をだす立場にあり、そこの係長のほうが偉いということだ。

 これは若手でなく幹部にも言えることである。例えば、中小企業庁の部長と秘書課長にポストにそれぞれ同期が着任しているケースが見られた。この場合、後者は将来の事務次官だが、前者はあがりポストも近いケースが多い。

 この場合も本当にできる奴は下手に飛び級させないというわけだ。これは、同期間で露骨に差がついてしまうとプライドを傷つける場合もあるので、それに配慮したものかもしれない。内部的には同期に負けているけど、その人はちやほやしてくれるという寸法だ。又は最後まで2名を競わせるための仕組みともいえる。

■経産省の出世の目安

 「管理職への任用状況等について(平成30年度) – 経済産業省」というのが公表されている。

(出典:https://www.meti.go.jp/intro/data/pdf/hishyokakanrishoku_fy30.pdf

 

 上の図は上記の平成30年度実績から抜粋したものである。

 通常は一般的な省庁では20年目の前後で室長になるが、経産省の場合だと最速で13年目で室長を名乗らせる。多くは18年目といったところだろうか。

 課長級については通常は25年目の前後のところ、16年目から22年目の時期に名乗らせている。

 これにもからくりがあり、課長は俸給表における9級又は10級というランクの給与をもらうが、課長級と呼ばれる課長に準じる職として、参事官(8級)がある。8級とは室長と同じ給与だ。おそらく上記の15年目で課長級についているのは15年目で参事官を名乗っているということだろう。

 同様に室長についても7級又は8級のことを指す。室長級としては、7級の企画官や訓令室長等というものがある。つまり、○○官という役職や極めて小さな室長についたのが最速13年目ということだと推察される。

 これらのからくりがあっても早いことは早いのだが、単純に経産省だけ出世が早いというわけでもないというのは知っておくとニュースの見方もよりするどくなるかもしれない。

 筆者としては本件に関連する報道などを見たときに非常にデマが多いことが気になった。少し調べれば間違いだとわかることが多数書いており、その意味できちんと事実を見定めていく趣旨で記載させていただいた。しかしながら、役所のシステムってわかりにくいよねというのは激しく同意。それについて主に公表情報を基にしてきちんと知っていただく助すけになればと思う。ではでは、このへんで。

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