リーマンショックから10年余りが経ち、日本企業の経営のプライオリティーが成長機会探索になって久しい。しかし、これまで一般的な日本企業(含むベンチャー)における企業価値創造/新事業拡大の多くは、

• IT分野のドメスティックな事業(への投資)
• 資源などへの投資や、海外企業のM&Aではあるが、組織統合/シナジーを本気で生み出すまでには至らない、「あまりリスクをとらない成長」

 といった内容にとどまっている感があり、創業者が元気な会社を除いては、組織や事業ポートフォリオをダイナミックに進化させるような動きは、あまり見受けられない。

 メーカーは中国からの競争に晒され、一方でグローバルマーケットでの先端的な部分は、いわゆるgafa(google,amazon,facebook,apple)がドミナンスをとり続けるエコシステムを構築している中で、どのような手を打って行けば良いのであろうか。
 
 筆者は、農業分野で事業探索を行う日本の大企業の相談に乗ることが多いが(新事業の候補として農業がなんとなくテーマとして上がりがちなので)、なかなかうまく行かなそうだな…と感じる事が多いし、一方でワクワクするような大企業の取り組みをお手伝いさせて頂ける機会も出てきたと感じている。

 以下、日本の大企業が事業創出をするにあたって、「気をつけたいこと」を6点にまとめた。耳に痛い話もあるであろうが、企業の新規事業創造などの一助になれば幸いである。
 
1. 「上から目線」を避ける
2. 「出島」の上手な作り方①CVCは、フリーハンドで数多く実行
3. 「出島」の上手な作り方②「ブリッジパーソン」の確保
4. 「出島」の上手な作り方③ベンチャー投資は、IPよりもビジネスデベロップメントに
5. 「旗」を明確に掲げ、ぶれない事
6. チーム日本として、「戦略領域」を掲げ、エコシステムを構築する

【1. 「上から目線」を避ける】

 筆者が、大企業と事業創出のお手伝いをする際に、どうしても感じてしまうことが多いのが、「結局、腹の底が上から目線だと、うまく行きようがないな」という感覚である。

 新事業創出アプローチの定番は、「自社の資産を活かす」ことであるし、その発想自体は否定するものではないが、それが、なんとなく上から目線の匂いに繋がってしまうケースが多い気がする。例えば、事業開発の担当者が、「ウチのこの進んだ技術(かなりニッチだがプライドあり)を活かせば、農業領域で事業が出来るはず(漠然と)」と言っているようなケースである。無邪気ともとれるが、その技術ドリブン発想だけではなんとかならない場合は、「しょうがなかった」になってしまうかな、死にものぐるいで何がなんでも事業を生み出す覚悟ではないのかな、と感じてしまい距離ができる。

 別のケースと言うと、農業事業の探索の為に、農家へ訪問し「現場感」のある現場確認をしに来たとする。しかし、スーツで訪問し、横で忙しそうに作業をしているのを傍目に見ながら、「こうやったらもっと効率的になるのではないか」的な発言を、抽象的にするシーンは多い。

 はたまた、協業候補のベンチャーに対して、内部的な論理で色々な事が決まらない/先延ばしにし続けるのに、振り回している/不義理をしている、申し訳ないなという感覚が無い、など。すべて、悪意がない事が多いが、それがなおさらタチが悪いということが多いと思う。新事業創出は、「熱」がとても重要なので、こういう感じはステークホルダーの熱を下げてしまうので敏感でいることが大切と思う。

【2.「出島」の上手な作り方①CVCは、フリーハンドで数多く実行】

 CVCの設立や、新規事業創出をミッションとする部署を本社から離れたオフィスに置いたり、戦略的中途採用を行うなど、事業創出の為に、本来の会社/文化から意識的にはみ出させる、いわゆる「出島」を作る例が多いし、有効であると言える。

 一方で、CVCを設立したものの、数年でたたんだり、右往左往しているように見られているケースも多いように思われる。以下、いくつかCVCを主に念頭において、「出島」のピットフォールを書くが、まず担当者への自由度の付与の大切さを訴えたい。ベンチャー投資は多分に属人的な関係が極めて重要であるし、「勘」が働くかが重要な性質を持つ。投資先のベンチャーの経営陣が文化的にフィットするかとか、信頼できる/面白いメンツか、といった判断がものを言う。

 こういった「勘」が働くためには、実際にいろいろなベンチャーに赴いて話をしている担当者(40代ぐらい)が最終的、実質的な投資判断者である必要がある。また、ベンチャーの死の谷(一般的には3年目ぐらい)を一緒に超える覚悟も必要となるので、2−3年で担当が変わる一時的な担当者や、海外であれば一般的な駐在員では物足りない。ましてや、担当常務や本部長といった上層部が判断をし、CVC担当者が上層部の顔色を見て判断していたのでは、2−3年後「誰(今はいない昔の上層部)が、昔そういったから」といった投資になってしまい、その後の協業や支援が右往左往する事になること必定である。

 フリーハンドを持った担当者が、ある程度腰を据えて、最初のうちは失敗するであろうが1年目で2−3件投資をしてみて感覚をつかんだ担当者が数年に渡って責任者を果たすような状況を作る必要があろう。また、担当責任者はプロパーが望ましい。もちろんVCとの協業や、VC経験者の中途採用も有効であろうが、結局「一緒にうまくやれるか」の感覚がモノを言うし、投資されるベンチャーにしても、投資してもらうかは、投資する大企業の「本気度」、ちゃんと寄り添ってくれるかが重要である。その意味でも、上層部との絆もある中堅エース級が腰を据えないと、なかなか難しいと考える。このような担当者に、5年ぐらいで10件以上失敗含めてやらせるぐらいの覚悟が必要であろう。

【3.「出島」の上手な作り方②「ブリッジパーソン」の確保】

 ベンチャーと大企業では、経営のスピード感、従業員の気質、経費感覚など、あらゆる面でギャップが大きいし、だからこそCVCは意味が有ると言える。海外のベンチャーに投資するというケースも多いであろうが、その際さらに距離感が出てくるのは避けられない。

 結果、様々なギャップが大きいので、投資後色々な面でお互い違和感が出てくるのは当然である。この時、気持ち、信頼関係がなくなってしまわないように繋ぎ続けるような人材が必要となる。新規事業担当社員などがその繋ぎをする事になるケースが多いと思われる。

 これには異能的なプロパー社員がいれば、そういった人材も活かせるケースもあろうがなかなかいるものでもないので、現実的には、企業勤務もベンチャー勤務、あるいは創業経験がある人材を中途で活用することが有効であろうと思われる。筆者が経験したケースでは、とある日本のメーカーのCVCにおいて、元シリコンバレーのVCで経験豊富な米国人で、奥さんが日本人の人がブリッジパーソンとして、良く機能している。

 彼は、一方で海外のベンチャーに対しては自分の言葉で、日本のメーカーとの協業がいかにベンチャーに取って有益かを語ることができ、その結果、多くのベンチャーが集まる。同時に、日本企業の論理や意思決定の慎重さなどを理解するし、自分より年下で、給与もメーカーの給与体系に準ずるメーカーのプロパーの人間を「上司」として扱い、コミュニケーションを絶やさない。このようなブリッジパーソンは、非常に希少かつ欠かせない人材であり、この確保が「出島」を有効に機能させる上で、多くの企業に取ってネックになると思料する。

【4.「出島」の上手な作り方③ベンチャー投資は、IPよりもビジネスデベロップメントに】

 日本の大手企業、特にメーカーなどがVC投資をする際、基礎研究、つまりIPを外から買ってくるという考えを取る場合が多いように思われる。これはこれで否定するものではないが、むしろ、ビジネスの0→1、1→10を作る部分を、動きのいいベンチャーに、2−3段階に分けて投資を行って実現するという考え方も非常に有効であると思われる。

 新事業の立ち上げ時には、迅速な意思決定や、「やんちゃさ」といったことが欠かせないし、大企業では社内ルールや、しっかりしたコンプライアンスなど、いろいろな「足かせ」がありなかなか難しい部分が多い。実際の売上を作り、プロトタイプを作りというステージになると、投資する側の大企業からすると自社でやるべきという論理が出て来がちであるが、動きの良い投資先ベンチャーにまず第一歩を踏み出させるとスピード感が違って来る。まずは、ビジネスデベロップメントまでやらせて、進捗に応じて段階的に投資し取り込んでいく/マスに展開する段階において社内で取り扱うといった見方が非常に有効であろう。

【5.「旗」を明確に掲げ、ぶれないこと】

 日本企業のCVCでよく見受けられるのが、抽象的な目的意識しか持たないために、横並びになって同じベンチャーに何社かが投資をしてヴァリュエーションだけ高くなってあまりメリットがなかったり、或は、投資した後に、投資目的、いわゆるinvestment agendaが曖昧になり、上記と重複するが「昔誰が言ったから投資した」的な話が出て来てしまったり、というのがある。

 一般に、ベンチャーに大企業がマイノリティーでも出資すれば、ベンチャーの信頼性は上がり、それだけでも企業価値が上がる事も多いし、ベンチャー側からしても、最初に投資してくれた大企業への恩義は計り知れない。従って、そのベンチャーに取って最初に投資した大企業になる事の意義は大きい。

 その為には、大きな戦略的方向性、CVCや新規事業担当部署の目的意識を明確に定義する必要が有る。この技術/産業領域において、このような未来を実現する為にCVCを設置するというような定義である。その事が、上記のポイント2で上げた、担当者へのフリーハンド付与にも繋がって来る。この「旗」を社外に発信する事で、ベンチャーが向こう側からやってくるという状況も作ることができる。ベンチャー企業のピッチイベントなども増えてきたが、そういう場で「こういう領域の未来を共に創るベンチャー求む」と明確に発信する大企業は少ないし、非常に求められていると考える。

【6.チーム日本として、「戦略領域」を掲げ、エコシステムを構築する】

 少しマクロになるが、日本のベンチャーの世界は、かなり、「IT」「ドメスティック」偏重な気がする。先述した通り、広義のIT関連領域は、gafaが既に強固な基盤と、成長のエコシステムを築いているとも言える。その中で、日本を中心としてグローバルに展開できる事業領域はどこなのか。大企業、政府、起業家がある程度の目線合わせができれば、エコシステムを構築/強化する事が可能ではないか、と思われる。

 筆者の感覚からすると、日本が競争力を有するモビリティー、また、まだまだこれから勝負が決まるロボティクスは最優先領域であろう。自動運転のような領域は本気でグローバルで圧倒的な地位を占めることを狙いに行く必要があると思われる。また、食、ホスピタリティーも日本は競争力を有するのにグローバルな展開が乏しい。化学/素材においても存在感が大きいし、今後イノベーションは起こり続けるであろう。

 また、共通して言えるのは、「モノ作り企業の、サービスカンパニーへの進化」というテーマである。多くの大企業がこのテーマを持ち、実現させるには業際的な取り組みを必要としている。そのような領域で連続的な動きが出てくれば盛り上がって来ると思料する。

 最後に、日本の大企業が、それぞれの「旗」を立て、業際的、グローバルに羽ばたいて行く為に、元気なベンチャーとどんどん協業していくエコシステムが盛り上がって行くことに期待して、本稿を締めくくりたい。

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兼業農家 新事業創出アドバイザー 木村敏晴

兼業農家 新事業創出アドバイザー 木村敏晴

東大法学部卒。ベインアンドカンパニーでの経営コンサルティングを経て、農家に。昨今は、兼業農家として企業の事業創出アドバイザリーなどを担当。株式会社キチリ社外取締役。
兼業農家 新事業創出アドバイザー 木村敏晴

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