9月の自民党総裁選への立候補を検討していた岸田文雄政調会長が7月24日、不出馬を表明した。岸田氏は、西日本を中心とした豪雨災害や課題が山積する外交への対応などを理由にあげ、安倍晋三首相(党総裁)を中心に取り組むことが適切であるとして、連続3選を目指す安倍首相を支持する意向を表明した。岸田氏の不出馬により、総裁選は近く立候補表明する石破茂元幹事長と安倍首相による事実上の一騎打ちとなる公算だ。ただ、岸田氏が率いる党内第4派閥「宏池会」(岸田派)の議員からは「出馬してこそ派閥の価値がある。このタイミングまで引っ張っておいて『出ません』というのでは白けてしまう」との声もあがる。過去4人の宰相を輩出した名門派閥はどこに向かうのか。

 「2時間ほど前に首相に電話し、不出馬の意向と支持することを伝えた」。岸田氏は7月24日夕方に開いた記者会見でこのように語り、安倍首相を支えていくことを強調した。自らの不出馬のみならず、「首相支持」をセットで表明したのは、もちろん「次の次」への期待からだ。岸田派内には、若手議員を中心に総裁選に出馬して政策論争に挑むべきとの主戦論があったが、その一方で「安倍首相を支え続ければ、『ポスト安倍』は自然と岸田会長におさまる」(中堅議員)との意見も根強かった。岸田氏はこうした派閥内の声を慎重に見極めた上で、安倍首相からの「禅譲」に期待する方向に舵を切った。

 7月23日に安倍首相と会談していた岸田氏が、翌日の記者会見直前にわざわざ電話したのは「総裁選後の処遇に配慮してもらえるよう念を押したのではないか」(他派閥のベテラン議員)と見る向きは多い。この点、岸田氏は会見で「(首相とは)人事のやりとりや密約のようなものは全くない」と否定したが、岸田氏の「不出馬&首相支持」が総裁選に与える影響は少なくない。

 安倍首相は、すでに出身派閥の「細田派」(94人)に加えて、盟友関係にある麻生太郎財務相が率いる「麻生派」(59人)、党務を委ねている二階俊博幹事長の「二階派」(44人)の支持を得ている。ここに岸田派の支持が加われば、連続3選を目指す首相は圧倒的優位で、派閥票だけで国会議員票の6割近くを手中におさめることが可能だ。今回の総裁選から地方票の割合が高くなるとはいえ、対抗馬の石破氏が地方票を「ほぼ総取り」でもしない限り追いつかない計算となる。

 ただ、岸田派内には不満もくすぶる。岸田氏の立候補を強く期待していた若手議員は「正直、ショックだ。仲間と相談するが、岸田会長が言うように安倍首相を支持するということにはならないのではないか」と語る。岸田氏は、安倍首相が連続3選を果たすことを想定し、現行ルールでは首相が出馬できない2021年の総裁選で支援をもらう「禅譲」を期待する。だが、首相周辺からは「岸田氏は決断が遅すぎる。何を今さらという感じだ。3年後どうなるかは誰にも分からない」と突き放す声も漏れる。主戦論の若手、禅譲に期待する中堅の双方から派閥の行方を不安視する声もあがっているのが実情で、すでに20人の推薦人確保が難航しているとされる野田聖子総務相の支援に回ることを模索する議員もいるほどだ。

 岸田氏は7月24日の記者会見で「岸田派は一致結束して行動してもらえると信じている。引き続きメンバーには説明を続けていかなければならない」と語ったが、自民党の保守本流を標榜してきた名門派閥は「制御不能」に陥る可能性すらも出てきている。6年ぶりの選挙戦となる総裁選で、首相は予想通り圧倒的勝利をおさめるのか、石破氏が「アンチ安倍」票を取り込んで大逆転を果たすのか。今年の猛暑とは対照的に、その熱さはあまり感じられない。

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言論ドットコム編集部

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