2012年12月にスタートした安倍晋三政権は、発足後5年7カ月を迎え、小泉純一郎政権以来の長期政権を築いている。1年間の短命となった第1次安倍政権(2006~2007年)とは異なり、再登板後に打ち出したのは経済政策「アベノミクス」だ。首相が掲げた財政・金融・成長戦略の「三本の矢」は円安や株高を誘導し、企業業績や雇用が改善。税収も伸び、景気の拡大局面は戦後最長期間に達する勢いとなっている。だが、肝心の個人消費は伸びず、米国と中国の貿易摩擦などのリスクも芽生える。9月の自民党総裁選で連続3選に「王手」をかける安倍首相だが、悲願のデフレ脱却を果たすことはできるのか。

 アベノミクスは、「機動的な財政政策」「大胆な金融政策」「民間投資を喚起する成長戦略」の3つの柱からなる。安倍政権が「指名」した日銀の黒田東彦総裁は、大規模な金融緩和を進め、その先導役を担ってきた。効果があらわれたのは金融市場だ。日経平均株価の2012年12月25日の終値は1万80円だったが、今年7月25日の終値は2万2614円と2倍以上。円ドル相場も足元で1ドル=111円台と、30円ほどの円安になっている。

 その主たる原因は、金融緩和で金利が下がったことにある。投資家は、相対的に金利が高くなる米国に資金を預けたいと考え、円を売ってドルを買う動きを強めた。この結果、円安が進み、日本からの輸出品は割安に向かう。輸出の拡大で製造業などの業績も良くなり、株価は上昇した。

 企業業績の改善は続き、財務省の2018年1~3月期の法人企業統計によると、経常利益は20兆1652億円で1~3月期として過去最高だった。企業が払う法人税なども増え、2017年度の国の一般会計の税収は58兆7874億円と、バブル直後の1991年度に次ぐ過去3番目の水準だ。業績改善や景気回復で働き手を求める需要も高まり、今年5月の有効求人倍率は1・60倍と44年4カ月ぶりに1・6倍台に達した。完全失業率は2.2%で、1992年10月以来の低水準となっている。

 政府は景気の拡大局面が、政権が発足した2012年12月以降続いているとみている。2019年1月まで続けば74カ月間となり、戦後最長の「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月)を超えることになる。
 
 問題は、個人消費が思うように伸びないことだ。総務省の5月の家計調査によると、2人以上世帯の1世帯あたり消費支出は28万1307円で、2012年11月の27万3772円からほとんど増えていない。その背景には、十分な賃上げが進んでいないことがある。経団連の集計によると、2018年春闘での大手企業の定期昇給やベースアップ(ベア)を含む賃上げ率は、前年より0・19ポイント上昇の2・53%となった。2%超えは5年連続だが、デフレ脱却に向け安倍政権が経済界に求めた「3%」には届いていない。業績こそ改善しているが、リーマン・ショックのような不測の事態に備え、相変わらず資金を使うことに慎重とみられる。

 雇用面は良くなっているが、実は働く人の約4割が賃金の低い「非正規」のため、消費全体を底上げするパワーは思ったほど生まれない。このほか、税金や社会保険関連の負担が重いことも、消費者の財布のヒモが緩まない理由となっている。消費意欲が強まらなければ、モノやサービスを売る企業は値上げできない。この結果、物価は上がらす、デフレ脱却もなお不透明なままだ。6月の全国消費者物価指数は、変動が大きい生鮮食品を除く総合で前年同月比0・8%の上昇、エネルギーを除くベースで0・2%の上昇にとどまった。

 日本経済の先行きには、リスクもある。米国と中国の貿易摩擦がその1つだ。貿易の停滞で米中の景気が後退すれば、日本製品は売れなくなり、日本からの輸出が減る。となれば、企業業績が打撃を受け、賃上げストップや消費の冷え込みにつながる可能性がある。対北朝鮮政策を見ても、これまでの常識にとらわれない米国のトランプ大統領がどこまで中国とやり合うのか見えない部分もあり、市場には様子見ムードも漂っている。

 振り返れば、第2次安倍政権の最大の公約といえるのは、憲法改正や集団的自衛権の行使容認などではなく、「デフレからの脱却」だった。長い在任期間が注目される安倍首相だが、戦後最長の景気拡張を果たし、「脱デフレ」を成し遂げた名宰相としても歴史に名を刻むことができるのか。いよいよ、その真価が問われる。

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言論ドットコム編集部

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