トランプ大統領が率いる米国の保護主義は日本にも大きな影響を与えそうだ。2018年3月に署名した日本など11カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)は、当初の旗振り役だった米国の離脱で、参加国合計の名目国内総生産(GDP)が3分の1に縮小した。日本は11カ国でのTPP発効を急ぎ、米国の心変わりを待つ。だが、米国は中国のハイテク製品へ追加関税を打ち出すなど「米中貿易戦争」が激化。対米、対中輸出の減少などを通じた日本経済への悪影響が拡大しかねない状況となっている。
 
 TPPは、参加国間で関税をなくし、貿易を活発にして各国が経済成長するのが狙いだ。北米、中南米、アジアの12カ国が参加していたオリジナルのTPPは、2015年10月に大筋合意し、発効へ向けて各国が国内手続きを進めてきた。

 だが、2017年1月、トランプ米大統領の誕生で風向きが変わる。トランプ氏が「TPPから永久に離脱する」と大統領令に署名したのだ。トランプ氏は日本や中国、ドイツなど、米国が貿易赤字を抱える相手国に不満を持っていた。これらの国から安い製品が米国へ流れ込み、米国製品が売れなくなった結果、米国企業の業績悪化や労働者の失業につながったというのだ。TPPに加われば、こうした傾向が加速すると見ている。

 最大の経済大国である米国が離脱し、TPPの経済的意味合いは薄れたといっても過言ではない。名目GDPはオリジナルの3分の1(世界全体の12・9%)、人口と貿易総額は半分(世界全体の6・9%、14・9%)に減っている。日本の経済官庁が描くのは、いずれトランプ氏が退陣すれば、方針が変わりうるということだ。このため、日本はまず11カ国でTPPを発効させ、米国の復帰を待つ作戦にカジを切った。会合や水面下の折衝を繰り返し、2018年3月、ようやく11カ国による署名にこぎつけた。

 今後、11カ国のうち6カ国が必要な国内手続きを済ませれば、60日以内にTPPは発効する。日本はすでに関連法の整備を終えており、国内手続きは完了。ほかの国にも手続きを促して早期発効し、経済的成功を米国に見せつけたい考えだ。

 一方、米国は中国との「貿易戦争」を深刻化させている。2018年3月には鉄鋼などの輸入制限を行い、7月には通信機器といったハイテク製品を中心に、340億ドル相当の中国製品に追加関税25%を課す制裁を発動した。今後は自動車へも追加関税を課す可能性がある。こうした動きは、世界経済への悪影響が大きい。米中両国の貿易コスト拡大や貿易量の減少が進むと、それぞれの景気が低迷し、通商関係のあるほかの国へも伝播するからだ。

 すでに米国では、中国から輸入している部品や鉄の関税上昇で生産コストが上がり、企業業績が圧迫され始めた。自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は2018年4~6月期の自動車部門の利益が前年同期比で半減したという。業績が悪化する企業が増えれば、賃金の引き下げや解雇が増え、消費意欲が低迷する。一方、中国も、部品やスマートフォン、自動車などの対米輸出が減り、生産低迷が景気減速につながる恐れがある。

 日本も、米国向けは自動車、中国向けはスマートフォン用半導体などの輸出が多い。米中で消費や生産が低迷すれば、こうしたモノの需要が落ち、日本企業の業績悪化につながる。同様の影響は、米中と貿易する欧州や東南アジアにも波及するだろう。

 世界経済が悪化すれば、「安全資産」とされる円が買われ円高が進む。日本からの輸出品は割高になって売れず、製造業中心に業績が悪化し、景気後退に追い打ちをかける。いずれにしろ、貿易戦争はだれも勝者になれない「チキンレース」といえる。事態改善のため何ができるのか。日本政府は単に「待つ」という受動的な立場ではなく、主体的に新たな手を打つべき時にきているのかもしれない。

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