政府は6月の経済財政運営の指針「骨太方針」で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化達成時期の目標を5年先延ばしすることを決めた。これまでの目標だった「2020年度」は、「2025年度」に後退し、財政再建が遠のいた形だ。安倍晋三首相は2019年10月に消費税率を8%から10%へ引き上げる予定だが、増収分のうち1兆7000億円は、当初予定していた国の借金返済でなく教育政策へ充てられることになっており、財政状況は悪化する恐れがある。

 PBは、予算の一般会計に関し「歳入の総額から国債などを発行して借金した収入を引いた金額」と、「歳出の総額から、国債など借金の元金や利子の返済分を引いた金額」のバランスを見たものだ。PB黒字の場合、国債を発行せず(=借金をせず)、支出をまかなえている健全な状態を示す。赤字は、国債を発行しなければ(=借金しなければ)、支出をまかなえない不健全な状態だ。

 日本はPB赤字が続いている。内閣府の試算では、2020年度にPB赤字は8兆9000億円となる見込み。これまでは、歳出改革などを進めて、2020年度に黒字化するつもりだった。だが、思ったほど税収が伸びなかったことなどから、その目標撤回を余儀なくされたのだ。しかし、新たな「2025年度」目標も達成できるかどうか市場は懐疑的に見ている。政府には、何度もPBの黒字化達成時期を先送りしてきた〝前科〟があるからだ。

 しかも、2022年には、人口が多い「団塊の世代」が75歳以上になり始める。社会保障費は格段に跳ね上がり、歳出を抑えるのはますます難しくなるといえる。このため、将来的には、高齢者の負担増を求めなければならない時がくるという見方は少なくない。例えば、後期高齢者の窓口負担は現在1割だが、これを2割に引き上げるべきだという声が政府内に出ているのだ。

 財政再建策でポイントになるのは、やはり消費税増税だろう。老若男女すべての消費活動に課税する消費税は財源として大きい。安倍政権は2014年4月の8%への増税以降、2回にわたり10%への引き上げを延期した。8%への増税後、消費が冷え、景気が腰折れしかけたトラウマがあるからだ。市場関係者の中には、2019年10月の再引き上げがまたしても見送られるのでないか、という懸念が消えない。
 
 ただ、現時点では景気の足腰はしっかりしており、増税しても大きな悪影響は出ないという見方が政権内に広がっている。今年末の来年度予算編成では、増税による景気変動を押さえ込む予算を別枠で作ることが決まっており、すでに住宅や自動車の購入支援策などのメニュー作りに着手している。

 もっとも、従来の消費税増税で予定していた財政再建のペースは遅れるとみられる。当初、政府は増税による約5兆円の増収分のうち、約4兆円を国の借金の返済に、残り約1兆円を医療、介護といった社会保障の充実に充てる計画だった。だが、昨年10月の衆院選で、安倍首相は増税分の使途を無償化などの教育政策に振り向けることを公約。借金返済に充てるはずだった4兆円のうち、1・7兆円を流用することにした。財政再建には一定のブレーキだ。

 国債、借入金などを合計した国の借金は2017年12月末時点で1085兆7537億円に上り、先進国で最悪となっている。現在は金利が低く利払い費も抑えられているが、今後、世界的な利上げ傾向に引きずられて金利が上がれば、利払い費の高騰だけで財政がパンクしかねない。

 9月の自民党総裁選で勝利をつかむ「総理・総裁」は、まず消費税率再引き上げをどうするかが課題となる。安倍首相は総裁選で消費税増税をいかに位置づけるのか。他の候補者はアベノミクスの対抗軸を打ち立てることはできるのか。「米中貿易戦争」など不安定要因もからむ中、その言動は日本経済に少なくない影響を与えそうだ。

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言論ドットコム編集部

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