2018年8月現在、AIは「人間とは異なる概念・記号表現体系」と「人間が発見した推論規則とは異なる推論規則」をどこまで獲得しているのでしょうか?具体的にはDeepMind社が計算機シミュレーション上の実証実験をおこなった結果、実際に観測された「AI言語」のレベルは、言語がもつ情報表現力の観点でどれくらいの水準なのでしょうか?

 次回の記事からDeepMind社の論文をいくつかとりあげて、論文中の「実証実験の結果」が記述された部分(Experiment部)の内容をつぶさに見ていきますが、今回はこれらのことをお伝えする前に「言語創発AI」の技術が、これから飛躍的に発展していった場合、このAIが国家安全保障に直接かかわりをもってくる可能性を「1つの可能なシナリオ」を提示することで示してみたいと思います。

■「AI語」で自律協調動作しあう無人機(UVs)の群集(Swarm)

 1つの考えられる可能性は、無人戦闘機(米軍が実証実験を終了したX-47B無人戦闘機など)や空中・水中で活動する自律稼動型の無人機(Unmanned Vehicle)が、「AI語」で互いの目と耳(センサー)と頭(AI)で捉えた「戦場の様相」を共有しあい、議論し、互いの役割を意思決定し、協調連携動作しあうシナリオです。

 無人機については、中国が台湾沖や南シナ海に軍事介入しようとする米空母機動艦隊を対艦弾道ミサイルや対艦巡航ミサイルや亜音速ミサイルで攻撃することによって、その接近を妨げようとする、いわゆるA2/AD戦略(接近阻止・領域拒否、Anti-Access/Area Denial)をとろうとするなかで、空母はそれらミサイルを前に、足の遅い巨大な標的になってしまう可能性が指摘されるなか、小型のドローンを多量個、中国のA2/ADエリアに進入(水中や空中に潜水・飛来)させて、中国沿岸部に設置されたA2/ADのためのミサイル発射施設やレーダー施設などを協調分散的に無力化する方向で運用させる案が、一部の軍事専門家の間で検討されて始めています。

 2018年8月現在、無人機についてWikipedia日本語版で調べると、言葉としては以下の種類が存在するようです。

・ 無人航空機(英: unmanned aerial vehicle, UAV)
・ 無人地上車両(英: unmanned ground vehicle, UGV)
・ 無人水上艦・水上艇(英: unmanned surface vehicle, USV)
・ 無人潜水艦・潜水艇(英: unmanned underwater vehicle, UUV)
・ 無人宇宙機(英: unmanned spacecraft、宇宙探査機space probeなど)

 現状、AI研究の世界では人間の指示を仰がずに(人間の指揮官のいる司令部との通信が途絶した環境下での運用を想定して)無人機を自律的に協調制御させるためのアルゴリズムとしては「マルチエージェント強化学習」(MARL: Multi-Agent Reinforcement Learning)が研究されています。しかし、戦場の状況と次にとるべき方策について「言語」で意思の疎通を図る無人機の群集(Swarm)は、この「マルチエージェント強化学習」を用いた協調制御よりも、任務遂行力が飛躍的に高まる可能性が考えられるのです。

 人間がいる司令部との通信が途絶された環境下において、水中無人ドローンや滞空無人ドローンの群集(swarm)が、人間からの指示を仰がずに「AI語」によって、自律的に協力しあいながら、敵地奥地に侵入して任務を達成することに力を発揮する。また、通信が通じ合う環境下でも、統一通信ネットワークでデータリンクされた人工衛星やAWACS、無人戦闘機、地上の無人戦車、水中の無人潜水艦などが、自律的に、協調的に動作する。そんな時代が、10年後、15年後にはやってくるかもしれません。

 無人戦闘機については、主要各国がいわゆる「第6世代戦闘機」の設計構想の検討に入るなか、英国国防相が有人戦闘機をベースにしながらも遠隔操作で無人戦闘機としても利用可能なようにしたいとの考えを表明しり、数年前の話ですが、ロシア国防相が、有人戦闘機・無人戦闘機の両案を検討中と発言したのを各国メディアが報道したこともありました。

 現在の第4・5世代戦闘機も、周囲にいる友軍戦闘機のみならず、味方の潜水艦や護衛艦、沿海域戦闘艦(LCS)、戦車、AWACSといった陸海空(宇宙サイバー空間)の友軍兵器と、互いにデータリンクによって通信ネットワークを介してつながっています。それにより、互いの目と耳で捉えた戦場のリアルタイムの状況を共有することで、敵が戦場のどこに、どのような布陣で、構えているかの戦場状況図を共有するのみならず、敵のレーダー施設や兵器システムが発する電磁波を解析することで(ELINT)、どの位置にいる敵が、「攻撃モード」や「サーチ(探索)モード」など、いま、いかなる動作モードで動いているのかを、「考えた」結果も、通信ネットワークを介して瞬時に友軍と共有することで、「戦場の霧」を晴らそうとしています。

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AI研究家 小野寺信

AI研究家 小野寺信

1944年、長野県生まれ。カナダ在住。1930年代の「物」論考、「哲学への寄与」論考など、いわゆるハイデッゲルの中期思想と、西田幾多郎ら京都帝大の「場所の論理学」の思想の架橋を志すも、九鬼周造の「偶然性の哲学」の文章に触れて、己の非才を悟り、断念。計算機科学と知能の計算論的再現に惹かれ、人工知能の研究に励む日々を送る。若いAI産業人や大学・大学院生に対して、カオス理論と身体性に立脚した「米国の後追い」ではない、我が国自身の「AI研究アプローチ」が実在することを知らせる必要性を痛感し、連載をスタートした。