「目」と「耳」で取られた情報と、「頭」で考えた「インテリジェンス」を無数の無人機兵器が(人間の言語のように)概念と単語を組み合わせることで事実上、無限に多様な意味内容を帯びたメッセージや指示・命令をやりとりしあうことができる「AI独自規格の言語」を用いて取り交わすことができるようになるというのが、【シリーズAI探究】に掲げたシナリオです。

 学会誌やオンライン論文掲載プラットフォーム「Arxiv.」(米Cornell大学が管理)に公開された論文を見る限り、2018年8月現在、「独自の概念と言葉」をもつAI Agentの群衆が取り交わすことのできる「価値ある情報」(Intelligence)のレベルは、「私が見ている物体は、これこれ、しかじかのものである、君にそれを伝達する」という類の簡易なメッセージに過ぎません。このレベルの意思疎通であれば、事前に人間が定義した周波数帯と符号で無線信号を互いに取り交わせば事足りるレベルです。テレビのリモコンボタンを押すことで、自分が「見たいチャンネル」を「テレビ受像機」に伝達するのができるのと、なんら変わりないレベルです。

■数年単位で飛躍的に高まる表現能力

 しかしながら、AI領域における技術の進展速度はいったん、ごく素朴(primitive)な目標を達成できるアルゴリズム(仕組み)に行き着くやいなや、数ヶ月後には後追いの数十本の論文が、その基本アルゴリズムの延長線上で実現しうることのかなりの部分を実現してしまう情況にあります。

 今回の例だと、「概念合成力」と「単語合成力」をもつAIにとっては、手持ちの「概念」の数と(その概念を表象する)「記号列」(単語)の数が、たとえ有限個であったとしても、有限個の概念=記号列(=語彙)を復数個、組み合わせる「順列」(Permutation)の数は、膨大な整数に及ぶため、現実的にはほとんどあらゆる状況・情況の変化であっても、それら獲得済みの有限個の概念=単語集合(語彙)を、獲得済みの文法規則(形容詞と名詞、前置詞と仮定法などを組みわせることで、複雑な意味内容を記号列で記述することを可能にする記号の並び順序規則)の制約内で自在に組み合わせることで、理解した情況の変化の態様がどのようなものであっても、それを仲間のAI Agentに言葉を介して伝達できることが原理的には可能であることを示しています。

 そして、「原理的に可能である」と見通せることは、現在のAIアルゴリズム研究の世界の速度では半年前後で、目に見える論文の形で査読論文誌に掲載されるのが常態です。

 こうなると、テレビのリモコンボタンのように事前に人間の設計者が付与した数種類のメッセージしか伝達できないような旧来型の無人UVsの群衆(Swarm)は、自由自在に概念合成と単語合成(=文章生成)を行う能力をもったUVsの群衆を前にほとんど歯が立たないことは衆目の一致するところではないでしょうか。

 近い将来、Boston Dynamics社が開発したバク転をしたり、障害物のある斜面や階段を横転せずに走り抜けたり、垂直の壁を伝って移動できたりする(YouTubeで動画閲覧可能)「戦車」や「白兵戦闘兵器」や、無人小型潜水艇、無人LCS、無人戦闘機、さらには人工衛星などと、AI自身の言語を介したコミュニケーションをとりながら協調動作をとるかもしれません。

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AI研究家 小野寺信

AI研究家 小野寺信

1944年、長野県生まれ。カナダ在住。1930年代の「物」論考、「哲学への寄与」論考など、いわゆるハイデッゲルの中期思想と、西田幾多郎ら京都帝大の「場所の論理学」の思想の架橋を志すも、九鬼周造の「偶然性の哲学」の文章に触れて、己の非才を悟り、断念。計算機科学と知能の計算論的再現に惹かれ、人工知能の研究に励む日々を送る。若いAI産業人や大学・大学院生に対して、カオス理論と身体性に立脚した「米国の後追い」ではない、我が国自身の「AI研究アプローチ」が実在することを知らせる必要性を痛感し、連載をスタートした。