なくならない待機児童問題。年々増していく保育士の需要。東京都内では、なんと保育士の求人倍率が6倍になっています(参考:日本経済新聞 保育士争奪戦、東京の求人倍率は6倍に迫る)。

 圧倒的な供給不足。一方で増える潜在保育士。なぜ保育士は仕事をやめてしまうのか。その理由の1つは「給料が低いこと」というふうに世間でよく言われています。

 でも、それは本当なのでしょうか。だって、こんなに供給サイドが強いわけだから、給料だって高くなってもいいはず。実際にニュースでも保育士の待遇改善の話を見ます。

 というわけで、気になって調べてみました。

【結論】
見方によっては世間でいわれているほど他産業との給料の開きはなかった…。だが、別の問題が見えてきました。それは、結局のところ男女の賃金格差でした(※今回は「私立」の保育園で働く保育士限定の話になります。というのも「公立」の保育園で働く保育士は地方公務員であり、その給料は他の公務員と同じだからです)。

■「相対的な給料は低くない」といえる理由

 例えば、2018年5月9日の朝日新聞の記事には次のような一文があります。

厚生労働省の2017年の調査では、保育士の平均賃金は月22万9900円。全産業平均とは10万3900円の開きがあった。
引用元: 朝日新聞 なぜ低い?保育士の給料 「あと10万円は増えないと」

 その数字の根拠となっている2017年度の厚生労働省の統計データを見てみました。確かにおよそ10万円の開きがあるようにみえます。一般的に、これくらいの給料の差があるように認識されている気がしますね。

 なお、その統計データは「2017年 賃金構造基本統計調査」にありました。

 でも、この数字、元の統計データをみるとわかりますが、明らかに比較の仕方が間違っています(間違っているというより、意図的にそうしたのかもしれないけど)。ポイントは2つ。年齢と性別です。

■平均年齢に約10年差

 比較された保育士の平均年齢は32.4歳でした。一方で、全業種の平均年齢は42.3歳です。これでは、給料に差がでるのは当然です。

 では、なぜこうなっているのかというと、保育士は若くして退職されてしまう方が多いからです。厚生労働省の調査によると、全業種の平均勤続年数は12.1年ですが、保育士は7.6年です。

 全国の保育園では、勤続年数7年以下の保育士が50%以上を占めています。だから、現在実際に働いている人の平均年齢を取ると、どうしても保育士は低くなってしまし、したがって給料が低く見えてしまいます。

■考慮されていない性別

 全業種の中で、男性の構成比率は約58%、女性は約42%です。一方で、保育士の方はどうかというと、女性の構成比率が約94%です。

 男性保育士も増えては来ましたが、まだまだ女性のほうが圧倒的に多い職場です。加えて、働き方改革がようやく社会に浸透し始めてきたとはいえ、女性は非正規で働かれている方も男性と比べて多くいらっしゃいます。この状況を無視して比較しても、あまり有意なデータとはいえない気がします。

 これらのことを考慮して、全業種と保育士の給料を比較すると、どうなるか。まず、保育士の年齢を比較対象とする全業種のものと合わせます。そして次に、性別もそれぞれ別にしてデータを比較します。

 すると、こうなります。

【世間でこれまで比較されていた数値】
全業種(男女/42.3歳) ¥321,400
保育士(男女/35.8歳) ¥229,900
差(年齢考慮無) ¥91,500

【同世代男性同士で比較した数値】
全業種(男/42.1歳) ¥338,200
保育士(男/40~44歳) ¥305,200
男性の差  ¥33,000

【同世代女性同士で比較した数値】
全業種(女/41.5歳) ¥262,300
保育士(女/40~44歳) ¥241,800
女性の差  ¥20,500

 それぞれの差をグラフにするとこんな感じ。

 やはり、近年の保育士の待遇改善が着実に進んできたこともあり、給与格差は同じ条件で見ると比較的緩和されてきているといえます。

 しかし、当然これでめでたしめでたしとはならないですよね。なぜって、どうみてもおかしいことがある。男女の賃金格差が大きすぎやしませんか?

■本質的な問題は男女の賃金格差

 全業種の同世代でも男女の賃金格差は酷いです(75,900円/月)が、同じくらい保育士の差も酷い(63,400円/月)。
男性保育士が全保育士に占める割合は約6%です。ですが、女性保育士と比べると圧倒的にお給料が良いことがわかります。ちなみに、男女の保育士の賃金の伸びをグラフにするとこんな感じです。本当に驚きました。まさか、これほどとは…

■保育士の給料をアップさせるためにできること

 ここから先はエビデンスのない、現場で保育士の方々からお話を聞いている自分の主観的な推測になりますが、なぜこんなことが起こっているのかを考えると、それは保育園が、女性が長く働ける職場ではないからではないでしょうか。
つい最近も目を疑うようなニュースがありました(参考:AERAdot.「妊娠順番制」を破った30代女性保育士が受けた仕打ち)。

 私は採用担当としてフローレンスに転職を希望される保育士の方々からお話を聞く機会がありますが、実はその転職理由でよく聞くのは働き方の問題なのです。保育園は女性が96%を占めているというのに、女性にとって働きやすい職場ではない可能性があります。男性保育士の給料は全業種平均と比べて決して高くないとはいえ、同世代の他職種と比較すると決して低くはありません。

 つまり、女性保育士のお給料を男性保育士と同水準にするだけで、問題がある程度緩和されるのです。もちろん、全業種と比較すると保育士はまだ少し給料が低いのが現実。これからの社会では保育士の皆様の力がこれまで以上に必要とされることを考えると、政治に働きかけて給料を増やすようにしていかねばなりません。

 でも、それ以前に、妊娠したから退職しないといけないなんて馬鹿げてるし、残業を持ち帰らせるなんておかしいし、陰湿な慣習なんて問題外。こういうおかしなことがそれぞれの保育園内で改善されていけば、女性が長く働ける職場になり、それは保育士の賃金を押し上げることになります。待機児童問題にも効果は大でしょう。

 実は政府の方でも、長く勤めた保育士には賃金を上乗せできるように施策を打っています(参考:2017年2月24日 厚生労働省「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について)。

2017年2月24日 厚生労働省「保育士のキャリアアップの仕組みの構築と処遇改善について」

 例えば、経験年数概ね7年以上から副主任保育士や専門リーダーといった役職をつくられます。それに任命されると40,000円/月もの処遇改善がなされます。

 でも、現状では平均勤続年数が7.6年の保育士。そこまで到達する前に殆どの人が退職をしてしまっています。この状況を保育園の運営側と現場が力を合わせて変えていくことが、保育士の待遇改善の第1歩ではないでしょうか。

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認定NPO法人フローレンス 前田晃平

認定NPO法人フローレンス 前田晃平

認定NPO法人フローレンスで採用マーケティング担当。前職はリクルートで教育機関の広報支援と新規事業開発。慶応大総合政策学部中退。