政府が検討していた放送制度改革の議論は、ワイドショーのあり方を見つめる良い機会となった。政府内には、放送番組に「政治的公平性」などを求める放送法を改正すべきとの声があったが、規制改革推進会議による答申はこれを見送り、テレビ番組はこれまで通り政治的公平性が「担保」されたことになっている。だが、ネット上では「ワイドショーを筆頭に、今のテレビ番組が公平に報じているとは思えない」「一方的な主張に偏っていることもある」との声も根強い。矛先が向けられている番組は、与党内から「政治的な思惑を持った人物を出演させ、特定の人物の批判を繰り返し、それを垂れ流すことを許している」(自民党中堅議員)と疑念を持たれており、放送法との兼ね合いが引き続き問われている。

 公共の電波を使う放送局は、その影響力の大きさや国家によるメディア統制の教訓を踏まえ、1950年施行の放送法にある「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(1条の2項)を原則としている。その核は放送法4条の4項にある「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」だ。この「政治的公平性」をめぐる政治と放送局サイドの「戦い」はこれまでも繰り返されてきた。

 有名なのは、1993年の「椿発言」だ。テレビ朝日の報道局長だった椿貞良氏が日本民間放送連盟の会合で「政治的公平性」を疑われる発言をしたとされる問題である。当時は、自民党が結党後初めて野党に転落し、非自民の細川護熙連立政権が発足。椿氏は「反自民政権を成立させる手助けになる方向で報道した」などと発言し、これを問題視した自民党は猛反発した。

 自民党はその後も放送局側の報道姿勢に懐疑的で、2014年11月には安倍晋三首相の側近である萩生田光一筆頭副幹事長らが「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」との要望書を放送局に送付。第2次安倍政権発足後は、高市早苗総務相が政治的公平性を欠く内容を放送局が繰り返した場合には、電波停止を命じる可能性にも言及した。

 今回、4条撤廃を含めた放送制度改革は安倍首相の意向があったとされている。通信と放送の融合を進めることが狙いとし、安倍首相は「(インターネット番組は)双方向で色々な意見があり、面白い。見ている人には地上波と同じで、法体系が追い付いていない」と必要性を説いた。ただ、4条を撤廃した場合には自由度が高いネット番組と同じように「極端な内容」に放送局側が引っ張られることへの懸念は根強い。この「政治的公平性」の担保が、時の権力の介入を防ぐことにつながってきたからだ。立憲民主党の枝野幸男代表は「ますます中立公正な放送が求められている時代に、これ(放送法4条)をなくすのは論外だ」と批判する。

 ネットが急速に普及したとはいえ、放送局の影響力はなお大きく、報道内容や出演者の発言次第では「劇場型政治」も、「ネガティブキャンペーン」も生むことが可能だ。小泉純一郎政権が誕生した際は「劇場型政治」と呼ばれたが、政権の高い支持率を支えたものの1つには好意的に報じたテレビ番組があった点は否定できない。その一方で、ネガティブキャンペーンに襲われた元横浜市長の中田宏氏が「政治家を殺すのに刃物はいらない。スキャンダルをでっち上げればいい」と指摘しているように、一方的な主張に基づくネガティブな情報が垂れ流され続ければ、どのような政治家も「社会的に抹殺」される危険性もはらんでいる。

 最近は放送局側も政治家からのクレームに神経を尖らせているとされるが、ある民放関係者はこう笑みを浮かべる。「政治的な内容を放送局側がするのは、やはりリスクがある。だから、タレントや著名人にきわどい発言をしてもらうことが多くなった。もし、問題になったら、タレントや著名人が『勝手に言った』ということにして、降板してもらえば良いわけだから」。キャスターやアナウンサーといった番組の中核には際どい内容は触れさせず、放送局側も「自己防衛」に走っているというわけだ。

 実際、視聴率が比較的高いワイドショー番組では、タレントやお笑い芸人が政治分野でも歯に衣着せぬ発言をしているケースが目立つ。番組を牽引するMCは中立性を守っているようにも見えるが、話題ニュースのコメントをタレントに振り、専門外の事柄をお笑い芸人が「印象論」で語り合うシーンは珍しくない。かつては弁護士やエコノミストなど資格・専門性がある人物に得意分野で語ってもらうスタイルが多かったが、最近はお笑い芸人らが「ことの本質はよく分からないけど、私はこの人をなんとなく嫌い」などとコメントし、隣に座る別のタレントも「自分もそう思う」などと呼応する「井戸端会議」状態も見られている。

 ネット上では「何の知見があってコメントしているのか」「今のワイドショーがニュートラルだとは全然思わない」「無責任な印象操作をしている」といった声も聞こえる。放送局側は「出演者は一般的な感覚でコメントしている」(キー局関係者)としているが、自民党中堅議員の1人は「出演者の中で影響力がある人物や芸人が無知のまま印象論で語り、共演者も反対側の主張をすることはなく、ただ同調しているだけ。これでは番組内容が偏るのは当然」と冷ややかだ。

 政治家にとって、影響力が大きいワイドショーは「味方」につければ心地よい存在となるが、「敵」に回れば厄介な存在でもある。4条撤廃は今回見送られたものの、若手議員時代から放送局側の対応に不満を抱いてきたとされる安倍首相が9月の自民党総裁選で連続3選を果たせば、再びテーブルにのる可能性もありそうだ。

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言論ドットコム編集部

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