メディアは影響力の大きさゆえ、人々の関心や好奇心を刺激してブームを生み出す「装置」となるが、その内容次第では一斉に突き刺さる「刃」にもなる。視聴率を重視する放送局は独自コンテンツやニュースを追うことは忘れていないものの、各社「横並び」の放送内容に陥る傾向もあるのが実態だ。ひとたびメディアが食いついた「ネタ」は各社で繰り返し放送され、そのマイナスイメージは視聴者に残る。方向を間違えば、「1憶総監視」状態のまま、その「餌食」となった人物の一挙手一投足が連日追われることになる。そこにメディアの危険性はつきまとう。

 放送法4条の4項は「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定め、放送局にはその枠内での内容が求められている。だが、メディアとしてバランス感覚を疑われる番組は消えず、「標的」とされた人物の生殺与奪を握る状態は続いている。

 「本日のフジ『バイキング』などで、スタッフ、家族がメンタル面で大分大変なことになっています」。自民党の和田政宗参院議員は3月23日、自身のツイッターでこのように記した。発端は、3月19日の国会で和田氏が「太田充理財局長は、民主党政権で野田佳彦首相の秘書官を務めた。増税派だからアベノミクスをつぶすために、安倍晋三政権を貶めるために意図的に変な答弁をしているのではないか」と財務省側の責任を厳しく追及したことだった。

 この質疑について、時事通信の田崎史郎特別解説委員は「この人は、みんなの党で当選して、2つ政党が変わって、いま自民党に入れないもので、いま自民党会派に所属している形なんですね。来年(参院議員の)改選を迎えるんですよ。ちょっと自己アピールしようという気持ちがまざったのかな」などと発言。共同通信論説委員の柿崎明二氏は、フジテレビ系の「とくダネ」で「一種の威嚇になってくる」などと発言し、番組は和田氏に否定的な流れとなった。

 和田氏は3月20日、ツイッターに「『ひるおび』で事実誤認し名誉を棄損した田崎史郎氏と番組、『とくダネ』でレッテル張りと論評を超えて名誉を棄損した柿崎明二氏と番組について、訂正や説明がないなら法的措置を取ることを考える」と投稿。翌21日の投稿でも「『ひるおび』の田崎史郎氏。昨日の放送で自民党所属なのに間違えて発言したことは訂正したが、誤った前提でした発言は訂正せず。誤った前提と組み合わされて発言したから事実に基づかない一体の発言となり名誉を棄損しているのだが訂正になっていない。また財務相の発言等を付け加えたがどういう意図なのか」と怒りはおさまらなかった。

 田崎氏は、番組で「昨日、和田政宗議員のことを自民党に所属していないと申し上げたが、これは僕の勘違いで、今は自民党に所属している」と訂正したものの、コメンテーターが示した見解に沿って番組の流れが決まってしまう危険性を表しているといえる。

 公用車の別荘送迎や不適切な「政治とカネ」問題を指摘され、都知事辞任を余儀なくされた舛添要一前都知事は3月26日、テレビ番組の現状を自身のツイッターにこのように記した。「放送法4条有名無実化の原因は視聴率競争である。どの局(NHKまで)も数字がとれる話題に集中し、嘘を言っても他局より過激に番組を作る。舛添バッシングのときがそうで、租税回避暴露のパナマ文書など話題にならず救われた者も多い」。舛添氏は「公私混同」問題でメディアの集中砲火を浴びた経験を持つだけに説得力はある。

 ある首相官邸関係者は、学校法人「森友学園」をめぐる決算文書改竄問題で、麻生太郎財務相に繰り返し辞任を迫っていたワイドショー番組を批判。「麻生氏本人が何度も『辞任は考えていない』と言っているのに、何度も『麻生氏、改めて辞任を否定』と流す。こういう放送をしていたら内閣支持率低下に響くのは当然」と指摘する。

 こうしたケースはしばしば見られ、昨年9月に小池百合子都知事が国政政党「希望の党」を立ち上げた際の番組内容も同様だった。メディアは一斉に「小池氏、国政出馬か」と連日放送したが、小池氏自身は当初から否定し続けた。ある番組はコメンテーターが何の根拠も提示することなく、「70%以上、国政に復帰する」などと発言し、実際に小池氏が衆院選に出馬しないことが判明すると、「小池氏は検討していたが、情勢を見て、日和ったから断念した」などと苦しい言い訳に終始した。ワイドショーに携わる民放関係者は「小池氏を取り上げると、視聴率が取れたので繰り返し放送した」と明かす。

 視聴率競争に重きを置く放送局と、政治的公平性のあり方を見直そうとする政府のバトルの行方は見通せないが、匿名情報が瞬く間に拡散するSNSが普及した今日、偽ニュースや印象操作にのらない国民の「教養」を高めることが改めて問われている。

The following two tabs change content below.