第一次、第二次イラク戦争とコソボ紛争以後、日米両政府が取り組んできた防衛力整備の取り組みに目を転じると、NHKが2018年5月19日に報道したNHKスペシャル番組「日本の諜報 スクープ 最高機密ファイル」で報じたところでは、市ヶ谷の防衛省情報本部電波部(DFS)と米国国家安全保障局(NSA)は、内閣情報調査室諒解のもと、日本列島上空付近の人工衛星を介してやりとりされる電子メールその他のインターネット通信を、電磁的に採取する(SIGINT-enabled cyber [intercepting])ことができるMALLARDと呼ばれるシステムの運用を開始しているとしています。

 こうした動向を見ると、中国は地上・海上・海中と空・宇宙空間を航空宇宙一体型の3層構造の戦術・戦略戦域情報通信ネットワークで、一体的に軍部隊・兵器システム間で共有する構想をすでに打ち出しているとはいえ、アメリカや、アメリカとUKUSA協定を締結しているアングロサクソンのFive Eyes諸国、3rd. Partyとして参画する我が国がもつ「SIGINTによるサイバー盗聴」技術に追いつくには、まだ一定の時間を要すると考えられます。

 しかしながら、「AI独自規格の記号列」による通信の秘匿性の向上、通信の保全性の強化は今のうちから検討しておくべき課題です。ここでは、既知の人間の言語とは可能な限り、言語構造の異なるAI言語が要求されるのだと見ています。

 ■「AI」に対する情報操作・思想戦も導入されるか?

 なお、人間の政治指導者や部隊指揮官に対して行われてきた欺瞞工作や情報操作は今後、AIに対して行われる時代が来るかもしれません(中国は政治指導者や軍事指揮官の戦況認識と意思決定の認知・意思決定の枠組みに影響を及ぼす情報戦を「3戦」(「世論戦」「心理戦」「法律戦」で構成)と位置づけてきた)。

 欺瞞工作を行うための下準備として、平時の時代から対象国の意思決定者がもつ情報の認知枠組みや思考風土、人間関係を入念に精査するようにAIに対しては、AI Agentがセンサーで捉えた画像のどの側面(色調、色形)に着目して、特定の状況判断を行い、仲間に対して特定の行動を促すメッセージを行なっているのかなど、AI Agentの認知枠組みと思考判断形成過程の癖ないしバイアスを、リバースエンジニアリングによって調査することが当たり前になるのかもしれません。

次回以降、取り上げるDeepMind社ほかの論文に画像掲載されているように内部の情報処理過程がブラック・ボックスだと言われて久しいディープラーニング・モデルも、一昨年あたりからSaliency MapやGrad Class Activation Mapと呼ばれる手法によって、AI Agentの頭の中で行われていること(情報処理の内部過程)を、部外者が頭の中を除きこんで、可視化することが、画像認識モデルや、言語処理を含む時系列データ解析モデルに対して可能になっています。

 これらの技術により、AI Agentがみずからのセンサーで捉えた画像データのどの位置のどのデータ属性(色か形か濃度か)に着目しているのかや、仲間のAIから受け取ったメッセージ記号列のどの部分記号列に注目しているのかといったことをAI Agentにハッキングをしかけて、思考パターンを調査することが可能になるというシナリオが可能になります。ここまでできれば、AI Agentが注目している特定座標領域の特定の画像要素を意図的に偽のデータに改竄したデータをAI Agentの内部ネットワーク回線に対して、物理的な手段で電磁的に流したり、仲間から受け取ったメッセージの特定記号列を書き換えた改変データをAI Agentに渡すなど、古代から人間に対して行われてきた伝統的な欺瞞工作やdisinformation工作を仕掛けることが可能になります。

 AI Agentに対して電磁パルスを照射して動作妨害をすることも考えられます。

 中国は無人兵器に対して、レーダーやセンサや無線通信に対する電磁パルスなどを用いた電磁的な妨害やミサイルや指向性レーザー用いた運動エネルギー型の物理的な破壊など、いわゆる電子戦(SIGINT攻撃)と、電子システムにハッキングをしかけて、コンピュータウィルス(マルウェア)によって動作妨害を行なったり、有線のサイバーネットワーク回線を破壊工作員が物理的に破壊したりするネットワーク戦(サイバー戦)を相互補完的に融合させた「電網一体化戦」を仕掛けてくるかもしれません。

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AI研究家 小野寺信

AI研究家 小野寺信

1944年、長野県生まれ。カナダ在住。1930年代の「物」論考、「哲学への寄与」論考など、いわゆるハイデッゲルの中期思想と、西田幾多郎ら京都帝大の「場所の論理学」の思想の架橋を志すも、九鬼周造の「偶然性の哲学」の文章に触れて、己の非才を悟り、断念。計算機科学と知能の計算論的再現に惹かれ、人工知能の研究に励む日々を送る。若いAI産業人や大学・大学院生に対して、カオス理論と身体性に立脚した「米国の後追い」ではない、我が国自身の「AI研究アプローチ」が実在することを知らせる必要性を痛感し、連載をスタートした。