若者で賑わいを見せる東京・渋谷。複雑に入りくんだ線路を掻い潜るように地上へ向かうと、そこには「ディスプレイの世界」が待ち受けている。スクランブル交差点を初めて訪れる人からすれば、とても刺激的な場所だ。視野に入ってくるディスプレイは信号待ちをする人々の関心を短時間で引き寄せる。だが、この光景は見慣れてしまっている人からすれば、「いつもの風景」になってしまう。

 今や街中のいたる所にディスプレイが配置され、携帯端末にも映像が流れてくる時代。各種のセレモニーはもちろん、企業は営業活動から受付にいたるまで映像コンテンツを使用することが増えている。なぜ企業は「映像」にこだわるようになったのか。そして、その作り手たちは何を、どのように考えているのか。制作サイドの私が感じていることを率直に伝えさせてもらいたい。

 私が渋谷のスクランブル交差点に立つたびに思い浮かべるのは、もう1つ、2つの「チャレンジ」があれば面白いのではないかということだ。例えば、ディスプレイの周りにプロジェクターで映像を投射することにより、一回りも二回りも大きなスクリーンをつくり出すことが可能なのではないか、ということ。

 紙の看板にもプロジェクションすれば、いつもは静止画の広告なのに、それは動画のスクリーンに「変身」できる。そういった「チャレンジ」を行うことで、「いつもとは違う光景」に変化することが可能なのではないか、と思っている。

 渋谷にいる若者たちは「発信力」を持ちあわせている。若者が集まる場所での「チャレンジ」は話題になり、やがて広告効果として現れてくるのではないか(もちろん、様々な制限や許可が必要な場合もあるが)。街頭ディスプレイは大きさや高さも踏まえた演出などをすれば、ディスプレイの中だけではなく、街全体を「舞台」に活用できるのではないか。

 クリエイターとして考えた場合、私はそうしたチャレンジが「プロの作品」には必要な要素であると思う。別の言い方をすれば、そこに芸術性があるのか否か、ということだろう。

 皆さんは、東京と仙台、ロンドンに拠点を置くビジュアルスタジオ「WOW株式会社」という会社をご存じだろうか。「芸術性」という観点で説明する場合、その作品を見れば広告を超えたアートを感じる方は多いはずだ。

 所属している中間耕平氏とは、10年ほど前に同じ会社で働いていた時期がある。その頃から中間氏は、他を寄せ付けない美的感覚があった。独特の世界観を持っており、その存在感は圧倒的ともいえる。

 芸術性を細かく見れば、ビジュアル的なクオリティはもちろん、映像を「誰に向けて」「どういう印象を残したいか」という内容のクオリティの差が大切になってくる。同じテーマの映像を制作した時、プロの映像に「見やすさ」が感じられる理由は、画角の中で、人間の視野の誘導や心理的にどう感じるかを計算して映像を制作しているからだ。例えて言うならば、左から右に歩くのと、右から左に歩くのでは視聴者が心理的に感じる感情も変わり、こうした点も計算している。

 プロの映像は飽きさせない「仕掛け」が要所にある。映像カットのタイミングも0コンマ何秒単位まで計算して情緒を感じさせるように計算し、色や音、読後感までも計算された編集を行っているのだ。

 企業が新商品や新しい事業を売り出す際、やはり求めるのは人々に与える「インパクト」である。欲しい、やってみたい、参加してみたい…など、消費者の気持ちを増幅させるよう緻密な計算をしている。だから映像コンテンツに力を入れたい企業は多い。

 今や動画広告の8割がスマートフォンで見られている。大型のディスプレイではなく、スマートフォンで見やすい映像を制作することも意識しなければいけない。文字の大きさや視野誘導の仕方、スマートフォン用に画角を変更することにより、全画面で流れる映像をインパクトのある映像にすることが欠かせない。

 「見せたいもの」と「視聴者のニーズ」との一致させるのもプロの「価値」。訴えたい内容をたくさん詰め込んでも、受け取る側のニーズに合っていなければ、それは単なるエゴになってしまう。視聴者のニーズに合わせながら伝えたいメッセージを織り込んでいくことができるか否かが制作サイドには求められているのだ。

 こだわればキリがないが、こだわらなければ駄作になる。プロには、視聴者のニーズを踏まえながらも芸術性を追求する姿勢が求められる。映像の完成度があらゆる局面で重視される時代だからこそ、その裏側にあるプロの意識ものぞいてみてほしい。

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GORAKU 川田昇吾
1982年生まれ。CGプロダクション勤務を経て2010年に独立し、2014年3月に株式会社「GORAKU」を設立。CM、MV、展示映像などのCG制作やディレクションを行う。 視覚コミュニケーションのプロフェッショナルとして、企画や演出、デザインに加え、「無駄のないワークフロー」を提案。CGを軸としたMV、CM、VPのディレクション、LIVEビジョンやプロジェクションマッピングといった大型映像の監修、企画にあわせたチームをオーガナイズし、「突き詰めた映像表現」には定評がある。