安倍晋三首相(自民党総裁)と石破茂元幹事長による「一騎打ち」の公算となった自民党総裁選は9月7日告示、同20日投開票の日程で行われる。安倍首相は出身派閥の細田派や麻生派、二階派などの主要派閥の支持を得て、すでに国会議員票の7割超を固めており、その勢いは止まりそうもない。石破氏は、参院竹下派などの支援を受けて地方票の獲得に期待を寄せるが、6年前の総裁選で見せた人気は影をひそめる。安倍首相が連続3選を果たし、「超長期政権」に向けて歩みを進めることが確実な情勢だ。だが、政界を担当するベテラン政治記者たちに聞いてみると、石破氏が「宰相」となる道はまだ残されているという。惨敗が見込まれる中、それでも「石破首相」が誕生するワケに迫る。

 「『日本を取り戻す』、この志のもと5年8カ月、内政・外交に全力を尽くしてきた。5回の国政選挙において安定的な政治基盤をいただき、誰にも働く場所がある、まっとうな経済を取り戻し、外交においては日本の大きな存在感を示すことができた。今こそ、少子高齢化、激動する国際情勢に立ち向かい、次の時代の新たな国づくりを進めていく準備は整った。この思いで昨年、総選挙に打って出た。そして、国民から大きな支持をいただいたのはわずか11カ月前のことだ。この国民の負託にこたえていくことは私の責任だ」

 安倍首相は8月26日、訪問先の鹿児島県垂水市でこのように語り、総裁選への立候補を正式に表明した。東京ではなく地方の訪問先で、テーブルをはさんだ会見場ではなく立ったまま記者団の質問にこたえる「ぶら下がり」形式で、立候補表明するというのは異例だ。桜島をバックに、明治維新150周年を迎える今年も自ら日本を牽引していくことへの強い意欲を示した安倍首相。もちろん、「地方」視察先での表明を選んだのはアベノミクスの効果が地方に波及していないとの声を念頭に入れたものであり、「ぶら下がり」形式だったのは対抗馬の石破氏が何回も正式な記者会見を行っていることを意識したものだろう。

■周辺に積もる疑心暗鬼

 この2人には、少なからぬ因縁がある。例えば、2007年の参院選で大惨敗した第1次安倍政権の際、安倍首相に真っ向から責任論をぶつけたのは石破氏だった。その後は仲介者をはらむ形で関係が修復に向かった時期もあったが、野党転落後に谷垣禎一総裁の下で石破氏が政調会長に就くと、安倍氏は再び距離を置いていった。2012年9月の総裁選で安倍氏が再び総裁に就いた際、石破氏を党ナンバー2の幹事長に起用したのは「これ以上歯向かうようなことをしなければ許すが、次はないぞという意味」(細田派関係者)だったとされる。

 政権奪還直後の高揚感もあり、2人の関係は表向き内閣と党で役割分担がうまくなされているように見えたものの、政策や地方選挙の進め方をめぐり対立が続いてきた。幹事長から地方創生相に就いたものの、その後は閣内残留を求める安倍首相の要請を蹴って「下野」した石破氏。20人足らずの派閥を率い、専門分野である安全保障分野だけではなく、国民の不信を招いた安倍政権と学校法人「森友学園」や「加計学園」をめぐる問題でも厳しく批判してきた。もはや、2人の関係は修復不可能といわれるくらいに亀裂が生じ、双方の周辺には疑心暗鬼が生じている。

■それでも「ポスト安倍」は石破氏

 「民主主義の現場を理解していないとしか思えない」。石破氏は8月16日、安倍首相が秋の臨時国会に自民党の憲法改正原案提出を目指す考えを示したことを痛烈に批判。17日の記者会見でも「理解なき改正をスケジュールありきで行うべきではない」とボルテージを上げた。連続在職日数が歴代3位の安倍首相に挑む「チャレンジャー」という観点からすれば、対立候補を「挑発」する戦略は当然といえる。

 自民党支持層から人気の高い安倍首相を繰り返し攻撃している石破氏は、保守層から袋叩きの目にあっている。「石破氏が言っていることは、まるで野党のようだ」(首相支持の自民党中堅議員)と批判する声がしきりにメディアで流され、保守系メディアや評論家も執拗に「石破たたき」を始めている。だが、石破氏が首相批判を繰り返すのには理由があると全国紙政治部記者は指摘する。

 「今回の総裁選で勝利をつかむのは困難としても、『その先』をにらんで石破氏は行動をしている。目先を追うだけではない点は成長といえる」。このベテラン記者の解説によれば、「ポスト安倍」は自分しかいないという存在感を示すことが今回、石破氏の「最大の狙い」というわけだ。

 政界の歴史を振り返っても、現職の首相(党総裁)が自民党総裁選で敗れて退陣を余儀なくされた例は過去に1人(福田赳夫氏)しかおらず、5年8カ月にわたって権力を手中におさめてきた安倍首相に勝利するのは至難の業であることは「百も承知」。実際、すでにメディアは「安倍圧勝、石破敗北」を前提とした報道に終始し、「石破氏はどの程度の得票があるか」にのみ注目している。公認権や人事などをめぐり「下手なことをして、安倍首相サイドからにらまれれば冷や飯を覚悟しなくてはならない」(ベテラン議員)と言われる中、あえて勝負に打って出た石破氏はどこを見ているのか。
《2 「レームダック化すれば交代も」に続く

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