世界中のメディアの注目を浴びた6月の米朝首脳会談から3カ月近くが経った。史上初のトップ会談で、かつて「悪の枢軸」と批判した米国、核開発やミサイル発射で国際社会を挑発してきた北朝鮮、双方のスタンスに変化が生じたのは間違いない。だが、その交渉は「進展」したかと思えば、突如として「後退」するドラマを超えた一進一退が続く。韓国や中国など関係国の動きが慌ただしさを増す中で、「蚊帳の外」に置かれる日本を取り巻く環境はどうなるのか。言論ドットコム編集部は、激動の安全保障環境を踏まえた未来図を緊急連載「安保未来図」として描く。

■意識する11月の米中間選挙

 8月20日、トランプ米大統領はロイター通信のインタビューで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との再会談の可能性について「非常に高い」と表明した。これを裏付けるかのように、23日にはポンペオ米国務長官が4回目の訪朝予定を発表した。ところが、トランプ氏は24日、自身のツイッターで「朝鮮半島の非核化に十分な進展が見られない」とし、ポンペオ氏の訪朝中止を発表。28日にはマティス米国防長官が、一部中止している米韓軍事演習について「我々にはこれ以上中止する計画はない」と述べた。

 北朝鮮は9月9日に建国記念日を控えており、休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言を金正恩体制の成果として国威発揚を図りたい考えだ。これに対し、トランプ政権は北朝鮮の非核化を進展させ、11月の中間選挙で共和党の勝利を後押ししたいところである。

■まだ核開発は続いている

 だが、北朝鮮の核開発は進展を続けている。国際原子力機関(IAEA)が8月20日付でまとめた報告書では、北朝鮮が寧辺の核関連施設で兵器級プルトニウムを生産できる黒煙減速炉で蒸気や冷却水の排出が行われていると指摘している。米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は北朝鮮東倉里のミサイル発射施設・西海衛星発射場で行われていた解体作業が8月上旬からストップしていると報告している。

 米政府が朝鮮戦争の終戦宣言に合意すれば、一連の核開発は止まるのか。答えは「ノー」だと考えるのが、日本政府当局者のほぼ一致した見解だ。

 「北朝鮮が終戦宣言を求めるのは、米国の『敵視政策』を変え、金正恩体制を維持するためだ。しかし、終戦宣言で北朝鮮の安全保障が確保されると考える軍事専門家は皆無だ」

 自衛隊幹部はこう指摘する。仮に朝鮮戦争の終戦宣言が行われても、インド太平洋地域における米軍プレゼンスが大幅に縮小することはない。6月12日の米朝首脳会談を受けて米韓合同軍事演習が一部中断しているが、ブルックス在韓米軍司令官は「準備態勢を弱体化させる命令は受けていない。高い水準を維持する方法を研究している」と明言している。

■終戦宣言でも「平和」保証されず

 終戦宣言からさらに進み、米朝両国間で平和協定が結ばれたとしても、在韓米軍が撤退する保証はないし、在韓米軍が縮小すれば在日米軍はむしろ強化される可能性もある。つまり、米軍が北朝鮮を攻撃できる態勢は維持されたままとなる。北朝鮮の立場で考えてみれば、終戦宣言に合意しても、平和協定を締結しても「平和」は保証されない。

 抑止は通常、「意図」と「能力」で構成される。米政府が終戦宣言や平和協定に合意することにより、攻撃しない「意図」を示したとしても、圧倒的な米軍プレゼンスという「能力」に直面する限り、北朝鮮の脅威認識が変化することはない。核開発計画を放棄したリビアのカダフィ政権が欧米の軍事介入により崩壊したことは、北朝鮮にとって忘れられない教訓となっていることは間違いない。

■何を「成功」と位置づけるか

 ただし、北朝鮮の非核化や、平和協定締結への見通しがつかなくても、米朝双方が交渉を打ち切る可能性は少ない。トランプ政権からすれば、11月の中間選で米朝交渉の「成功」をアピールする必要があり、2020年の大統領選をにらんでも、米朝交渉の「成功」は数少ない外交成果となる。日米外交筋は「トランプ氏にとって、米朝交渉で実際に成果が上がるかどうかは問題ではない。米朝交渉が『成功した』と宣伝することは決まっていて、問題は何を『成功』と位置づけるかだ」と解説する。

 北朝鮮にとっては、米国による体制転換を思い止まらせる重要な手段が米朝交渉であり、中国との関係改善を図るテコともなってきた。中国の習近平国家主席は就任以降、韓国との関係を優先する姿勢を示してきたが、3月上旬の金正恩氏訪中を皮切りに3回の中朝首脳会談が実現している。9月9日の建国記念日に習氏自身が訪朝するとの観測もある。一連の経過は、米朝交渉の実現により、北朝鮮に対する影響力を失うことに対する中国の恐れを反映していると言える。

 北朝鮮の非核化は、北朝鮮を除く全ての関係国にとって重要な政策目標となっている。米朝交渉が現状のまま一進一退を繰り返すことになれば、少なくとも米国や同盟国にとって痛手となるはずだ。しかし、仮に米朝両国が平和協定を締結し、北朝鮮の非核化が実現したとしても実態が伴わず、日米両国が対立する種を残すことにもなりかねない。米韓同盟、日韓関係にも好ましからざるを影響を及ぼす可能性もある。それはなぜか。次回「安保未来図②」では、その背景を探る。

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言論ドットコム編集部

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